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絵本作家・ヨシタケシンスケ 30代で売れなかった僕が40歳で絵本を出版するまで

絵本作家・ヨシタケシンスケ インタビュー #2

note

「ツチヤの口車」のイラストを描きつづけて、気がついたこと

――長寿連載で、ヨシタケさんは約14年、イラストを担当されていますね。

ヨシタケ はい。その当時、週刊連載のイラストなんてやったことがなかったので、「できるのかな」と思いながら、せっかくなのでやらせていただいて、現在に至るような感じなんですけど。イラストを担当するにあたり、土屋賢二先生から1つだけリクエストがありました。「本文のネタバレにしないでほしい」ということです。どうしても誌面では、自然と絵に目がいってしまう場合があると思うので、それは気をつけていたのですが、しばらくしてからもう1つ大事なことがわかりました。

――気になります。なんでしょうか。

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ヨシタケ 編集部あてに読者の方から質問が来たそうなんです。「『ツチヤの口車』に描いてある男性のイラストは、土屋先生ご本人なのでしょうか?」という。その時に「ああ、しまった」と思って。要するに、土屋先生がご自身の話をお書きになった時に、同世代の男性の絵が添えてあると、読者はその人が土屋先生ご本人だと思っちゃう。僕は、イラストレーターとして「実在の人に勝手なことを言わせない」とルールを決めているんです。

 

 要は文章を読まなくても、絵だけで面白さがわかるものに、一コマ漫画として成立しているものにしたい。あそこまで自由にやらせていただけるイラストの仕事って、滅多にないので。この連載の仕事のおかげで、イラスト・絵本の仕事ともに「できること」が増えている感覚があるんですよね。

――絵本もイラストも、つながっているんですね。

ヨシタケ イラストレーターって、どんな時でもイラストのサイズにしろ、内容にしろ、制約があって。それをすべてクリアしたうえで面白さ、自分らしさをやんわり入れこめるのが、イラストの質につながると思っています。その考え方でずっとやってきたことが、絵本にかなり生きているんですね。

 

――絵本は、テーマがないと描けない時期もあったんでしょうか。

ヨシタケ そうですね、テーマをいただければできるって気付いたのが『りんごかもしれない』の時です。実は、『りゆうがあります』(PHP研究所)を担当した編集者の方のほうから先に「絵本を描きませんか」と声をかけていただいたのですが、描ききることができなかったんですね。それで、もう一度会いに行って「私にテーマをください。テーマをいただければなんとかできます」と。イラストレーターというのはテーマに応える仕事なんです。そこで、「くせ」と「うそ」という2つのお題をもらったんですね。大人にも子どもにもあるものですし。それで色々考えて、自分の「くせ」について「うそ」をつくという話を作ったんですね。でも最近では、自分でお題を決めて企画を立てることのほうが多いです。