「ポストバイオティクス」とは?

 腸内細菌研究の最前線では、従来の「善玉菌を増やす」という発想を超えた新しい概念が注目されている。「ポストバイオティクス」だ。

「腸内細菌は、その名の通り腸の中にいます。菌が直接、脳まで行って何かをするわけではありません」

 

 重要なのは菌そのものではなく、菌が作り出す物質なのだという。

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「腸内細菌が腸の中で作り出す有益な物質が、血流などを通じて脳や体全体に影響を及ぼします。菌がいること自体も大切ですが、それ以上に、菌がしっかりと働いてこれらの物質を生産してくれることが最も重要なのです。この有益な物質を『ポストバイオティクス』と呼びます」

「菌のリレー」が生み出す健康効果

 國澤氏の研究で明らかになったのは、腸内細菌が単独で働くのではなく、複数の菌が連携して機能する「菌のリレー」というメカニズムだ。

「1種類の菌だけで食物繊維を分解し、短鎖脂肪酸まで作り出すことは稀です。まず最初の菌が食物繊維をある程度分解し、その生成物を次の菌が利用する。このように複数の菌がリレーのように働き、最終的に短鎖脂肪酸が作られるのです」

 このリレー機能こそが、腸内環境改善のカギを握る。「菌がバトンを渡すようにして、食べたものからだんだん形を変えていって、いいものを作っていく」プロセスが健康維持には不可欠なのだという。

「どんな腸内細菌がいいんですか」

 では、どのような菌を増やせばよいのか。この問いに対する國澤氏の答えは明確だった。

「ダイバーシティ、多様性が大事です」

 腸内細菌検査を提供する際、必ず聞かれるという「どんな腸内細菌がいいんですか」という質問。しかし、「腸内細菌には個人差が大きいので、どの菌がどのくらいいいですよ、とは説明しにくい」のが実情だ。

「一番わかりやすいのは、とにかくいろんな種類を揃えることです。腸内細菌は分業制なので、どんなに良い菌でも一種類だけが突出していると、その菌が得意なことしかできません。他の菌が担うべき役割は果たされなくなってしまいます」

 

 國澤氏自身の7年間にわたる腸内細菌の変化データは、この多様性の重要性を物語っている。特定の菌だけを増やそうとした結果、かえって腸の調子が悪くなった経験を経て、現在は「みんなを仲良く増やしていこう」というアプローチに行き着いたという。