顔をグチャグチャにされて「自前の歯なんかほとんどないですよ」

 かくも過酷な新日本道場の基礎練習だが、それが終わるのが昼前。そこからやっとスパーリングが始まる。極めっこの練習以外にも、時にはボクシンググローブを着けて、打撃のスパーリングも行われたという。練習始めのスクワットを終えた時点で、すでに足の自由を若手選手は失っているため、スパーリングが終わった頃には、完全に余力がゼロの状態になる。それが月曜日から金曜日までの毎日のメニューで、オフは日曜日と、土曜日が祝日の時だけだった。

「でも俺はそれが厳しいとは感じなかったというか、プロレスラーなんだからそれくらい厳しくて当たり前なんじゃないかなって。練習はどれもキツかったけど、スパーリング中にこっちがバテてると顔をグチャグチャにされるのがいちばん嫌だったね。フェイスロックの時に手の甲の出っ張ったところで頬をグリグリってやられるから顔はいつもズタズタ。それでみんな前歯が折れちゃうんです。俺なんかも6本差し歯ですし、みんな自前の歯なんかほとんどないですよ。谷津さんとかオリンピックから来てる強い人は、そういうことはやられないから歯が残ってるでしょうけど。

新倉史祐 写真/タイコウクニヨシ

 だからスパーリングが終わるといつも藤原さんに『うがいしてこい!』って言われて、外でうがいをしながら血反吐をバーッと吐いてた。だけど、それをやられて歯が折れたり、鼻血が出たり、口の中を切ったりしてるうちに、だんだんと顔面が強くなってきて、打たれ強くなっていくんですよ。

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 荒川さんと藤原さんにはよくやられたし、前田(日明)さんなんかも自分もやられてきたから俺ら後輩にやりましたよね。木戸さんはそんなしつこくはやらなかったけど、いろんな先輩がグリグリやってきましたよ。今は亡き剛竜馬さんとかね。国際(プロレス)から来たのに他の先輩と同じようにグリグリしてくるから、その時は『この野郎、いつか……』って思ってたんだけどね(笑)」