クマ以外の例になるが、自衛隊が最初から駆除を目的として派遣された例も存在する。これはご存知の方も多いと思うが、北海道におけるトドの駆除が挙げられる。1950年代後半から60年代にかけて、北海道の各地で行われたことが知られているが、最も有名なのは日高地方における駆除だろう。
トドの駆除に戦闘機、自走対空砲、榴弾砲などを使用したことも
これは新冠沖にある岩礁、通称トド岩に集まるトドによる漁業被害に悩んだ地元漁協の要望を受けた北海道知事の要請によるもので、10年近くにわたり複数回行われている。
1959年3月に航空自衛隊第2航空団所属のF-86F戦闘機による機銃掃射が行われ、1960年以降は陸上自衛隊第1高射特科群、第7特科連隊といった部隊が、自走対空砲、自走高射機関砲、榴弾砲といった様々な兵器で駆除を実施している。
こうしたトド駆除の活動だが、ある講演で航空自衛隊の元将官がトドに逃げられ成果がなかったと話しているのを聞いたことがあり、内容は自衛隊内でも正確に伝わっていないようだ。確かにトドが逃げてしまい成果がなかったこともあったが、10年近く行われており、自衛隊によるトドの駆除はきちんと確認されている。
また、優秀な成果を上げた部隊が表彰されたこともある。出動場所は不明だが、1962年2月19日から3月1日にかけて、第27普通科連隊第2中隊が海上射撃訓練を行い、その際にトド39頭を仕留めている。この功績により、第5師団長から第4級賞状を授与されたことが『釧路駐屯地50周年記念誌』に記されている。
これらの派遣は、名目上はあくまで自衛隊の訓練とされていたことに特徴がある。近年は日本周辺の安全保障環境の悪化を理由にして、国防以外の自衛隊活動を縮小する傾向にあるが、このトド駆除については自衛隊にもメリットがあったという。
当時、北海道には高射砲の射撃ができる演習地がなかったため、「訓練には絶好のチャンス」との北部方面総監部訓練担当部長の言葉を当時の北海道新聞は伝えている。
また、自衛隊だけでなく、地元のハンターも駆除を行っており、自衛隊はあくまで駆除の主体ではなかったことも覚えておきたい。時事通信よれば、1959年11月から1960年6月までの駆除頭数261頭のうち、自衛隊によるものは43頭とされる。
トド岩を望む高台にある大狩部御野立所公園には、駆除されたトドを供養する海馬供養記念碑が設置されている。1961年に高射特科群長と新冠漁業組合長を発起人として設置されたものだが、60年以上の歳月を経て碑は傾き、碑文も読解困難となっている。
