日本各地でクマの出没、人身被害が相次いでいる中、秋田県の鈴木健太知事が自衛隊の派遣を要請したことが大きく報じられている。前編では、過去に自衛隊が行ってきた、クマを始めとする獣害・虫害での派遣について、武器使用も含む活動内容について触れた。

 今回の派遣については、自衛隊は後方支援を行うと現時点では報道されているが、武器を使用したクマ駆除に関する議論は尽きない。しかし、大手紙でも自衛隊の動物相手の武器使用が憲法9条で制限されているという珍説を報じるなど、混乱もみられる。

トレイルカメラに映った親子クマ 提供 南知床・ヒグマ情報センター

 そこで、行政法が専門の横田明美明治大学教授に、現行法で熊害での自衛隊派遣は可能なのか、クマの駆除は可能なのか、といったことについて伺うことにした。なお、現在は自衛隊による土木工事等の受託を定めた自衛隊法100条に基づく派遣が行われているが、インタビュー時点では100条についての議論がなかったため、今回の検討の範囲としていない。

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――秋田県知事は「クマ駆除のための自衛隊出動を明確に想定した法令は存在しないので、通常の災害派遣のように簡単にはいきません」とInstagramで書いています。知事の言うように現行法・災害派遣の枠組みで対処が難しい問題なのでしょうか?

クマの出没は「天災地変その他の災害」にあたる?

横田教授(以下、横田) 以前、映画『シン・ゴジラ』を巡って、ゴジラに対する自衛隊出動の根拠についての議論がありましたね。その際に『シン・ゴジラ政府・自衛隊事態対処研究』(ホビージャパン)で発表した内容を元にお話しします。

 自衛隊法上の自衛隊の出動根拠は、大きく分けて防衛出動(76条)、治安出動(78条・81条)、災害派遣(83条)の3つが想定されています。都道府県知事は、83条1項に基づき、防衛大臣またはその指定する者に対して、要請をすることができます。

第八十三条
1項:都道府県知事その他政令で定める者は、天災地変その他の災害に際して、人命又は財産の保護のため必要があると認める場合には、部隊等の派遣を防衛大臣又はその指定する者に要請することができる。

 その場合、都道府県知事の要請を行うためには83条1項にある「天災地変その他の災害に際して、人命又は財産の保護のため必要があると認める場合」にあたることが必要であり、今回のクマの出没が「天災地変その他の災害」に該当するかどうか、「人命又は財産の保護のため必要があると認める場合」に該当するかが問題となります。

 災害に該当するかどうかが問題になる可能性はありますが、今回の熊害の状況では、該当すると判断しても差し支えないと思います。