「治安出動は国民に対して武器を向ける可能性があり慎重に…」

 これに対して、災害派遣(83条)にあっては、災害派遣時等の権限について定める規定(94条1項)においては、警職法のすべてではなく、6条1項・3項、4項のみが準用されています。これは、武器使用を認める7条を準用していない、という意味において、治安出動の場合と大きく異なっています。

 また、94条の3により、災害対策基本法及び同法に基づく命令に従い、災害対策基本法第5章第4節に定める「応急措置」を自衛隊はとることができます。

 これらの規定から、

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(ア)武器使用に関しては明示的に否定されている
(イ)災害対策基本法にいう「応急措置」の場合に、火器を用いることは想定されうる。たとえば、応急措置のうち「工作物等の除去その他必要な措置」(64条2項)があるが、これはたとえば災害で救助のためにダイナマイト等での発破が必要な場合等を想定できる

 と読み取ることができます。

(ア)の規定が、明示的に武器使用を除外していることを考えると、(イ)の応急措置に武器使用を含めてよいのかは疑問があります。すでに紹介されている緊急性の高い場合、その場で「たまたま」保有していた武器を活用したという事例は理解できますが、「超法規的」な解釈での拡大はするべきではなく、本来は法改正が必要ですね。

――熊害での災害派遣は可能でも、クマに対しての武器使用は現行法では問題があり、法改正が必要ということですね。では、武器使用を認めている治安出動は可能なのでしょうか?

横田 まず、治安出動は首相の命令が必要で、防衛大臣の判断で派遣できる災害派遣とは異なります。テレビ番組で治安出動に言及したコメンテーターがいたそうですが、治安出動は国民に対して武器を向ける可能性があるという意味において、それだけ重い手続だということを認識するべきでしょう。治安出動並みの有形力をヒト以外にも行使するためには、適切な立法が必要だと思います。現行法では無理でしょう。

――今後、自衛隊が派遣された場合、気になる点はありますでしょうか。

横田 先に「自衛隊の災害派遣は、緊急的・一時的な支援である」と言いましたが、クマ対策が常態化してしまうと問題になりそうですね。

――一過性の自然災害と異なり、今回の熊害は長期化しそうですから心配ですね。ありがとうございました。

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