一見反対のもののように見える「旅」と「日々」がまざりあう

『旅と日々』とは、真逆の言葉を併置したタイトルだろうか、と見る前には考えていた。

 先例として頭にあったのは、たとえば『戦争と平和』『天国と地獄』『白と黒』といったタイトルである。つまり筆者のなかには、〈旅=特別な体験が継続して起こる、いわば非日常〉〈日々=特に刺激のないままに過ごす、いわば日常〉というような二分法が成立していたのだ。しかし、じっさいの映画に触れることで、そうではない、と思うようになった。

『旅と日々』ポスター

『旅と日々』の構成はやや特殊だ。映画は若い脚本家・李(シム・ウンギョン)がノートに映画のシーンを書く動作からはじまる。そして、舞台は夏の海辺へと移っていき、おそらくはよそ者同士の若い男女が出会い、不思議な交流を持つ様子が描かれる。しかし30分あまりが過ぎ、実はこのエピソードは李が書いた脚本を映画化した、「映画中映画」であることがわかる。李は映画の、大学での上映会に出席していたのだ。上映会の終わり、疲れを覚えた李は、しばしの休暇として旅に出ることにする。そして彼女は、人里離れた雪山へと向かい、ひっそりと佇む宿を見つける……。

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©2025『旅と日々』製作委員会

 本作における「旅」とは、映画の内容に即せば、前半の海辺行/後半の雪山行であり、「日々」とは、ノートに向かい、言葉を編む李の生活であるだろう。しかし、これらは真逆の存在ではない。そして、一見反対のもののように見える「旅」と「日々」がまざりあい、不思議な円環をなしていくところに、この『旅と日々』という映画の魅力は詰まっている。