〈あらすじ〉
ある鄙びた海辺の町に1人たどり着いた女(河合優実)は、浜辺で所在なげにしている青年(髙田万作)と出会う。何を話すでもなく共に過ごし、嵐の海で泳ぐ2人――。
大学の講義室のスクリーンに映し出された映像。それは脚本家の李(シム・ウンギョン)が、つげ義春の短編漫画「海辺の叙景」を原作として脚本を手がけた映画だった。自身の才能に行き詰まりを感じている彼女に、魚沼教授(佐野史郎)は気晴らしの旅行を勧める。
ところが、それからほどなくして教授は急逝。形見のフィルムカメラを受け取った李は、それを持って旅に出ることを決意する。
向かったのは雪深い北国の温泉町。降りしきる雪の中で、李は町はずれのおんぼろ宿を1人で営む初老の男(堤真一)と出会う。
〈見どころ〉
メインストーリーのベースは「ほんやら洞のべんさん」。原作の主人公は“売れない漫画家の青年”だが、本作では『新聞記者』(19)主演など日韓で活躍する女優シム・ウンギョンが“スランプ中の脚本家”を演じる。
つげ義春の世界観を見事に実写化、かつ現代的にアップデートした珠玉作
ベルリン国際映画祭に3作が出品されるなど世界的に注目される三宅唱監督の最新作は、漫画家・つげ義春の短編2作を原作とした美しいロードムービー。スイスの第78回ロカルノ国際映画祭で、日本映画としては18年ぶりの金豹賞(最高賞)を受賞した。
-
芝山幹郎(翻訳家)
★★★★☆つげ義春の世界にこれほどうなずける形で再会できるとは思わなかった。風景を見抜く眼と、情感を探り当てる手が的確で、知覚の鋭さに驚く。記憶による時間の変形や、映画内時間の微妙な伸縮性も、過たずとらえられている。
-
斎藤綾子(作家)
★★★★★シム・ウンギョンの朴訥とした姿に好感を。挿入された短編映画も含め、李の想いに耽る様子と彼女の旅路に気持ちを重ねずにはおれず。自分の馴染んだ暮らしも、命が尽きるまでの旅かと想像させる。穏やかで心温まる作風。
-
森直人(映画評論家)
★★★★★つげ義春の劇画を介して、映画の原理を再発見するような瑞々しさがある。ホン・サンス監督の作風への接近は偶然か必然か。“撮る”ことで無為な点景から多元的な生のざわめきが立ち上がる『海辺の叙景』パートは端的に見事!
-
洞口依子(女優)
★★★★★「旅とは言葉から離れようとすることかもしれない」。まさにそれが静謐に描かれていた。夏の海や雨や嵐を真冬の雪を些細な音と共存する俳優たち。映画のヒロイン、脚本家、観ている自分と、入子細工構造で生きている快楽を得る。
-
今月のゲスト
柳亭小痴楽(落語家)★★★☆☆人々の静かな心情と物語が程良い尺に収まっていた。“旅とは言葉から離れようとすることかもしれない”。宿屋の主人と李の合わないようで合ってる関係が面白い! 景観の使い方も良く、シム・ウンギョンの演技がとても素晴らしい!
りゅうていこちらく/1988年、東京都生まれ。落語家。若手真打の一人としてメディアでも活躍中。NHKラジオ第1『小痴楽の楽屋ぞめき』(毎週日曜13:05〜)メインパーソナリティー。また著書に『令和の江戸っ子まくら集』などがある。
- 最高!今すぐ劇場へ!★★★★★
- おすすめできます♪★★★★☆
- 見て損はない。★★★☆☆
- 私にはハマりませんでした。★★☆☆☆
- うーん……。★☆☆☆☆
©2025『旅と日々』製作委員会 配給:ビターズ・エンド
INFORMATIONアイコン
『旅と日々』
監督・脚本:三宅唱(『ケイコ 目を澄ませて』『夜明けのすべて』)
原作:つげ義春「海辺の叙景」「ほんやら洞のべんさん」
2025年/日本/89分
11月7日(金)~
TOHOシネマズ シャンテ、テアトル新宿ほか全国ロードショー
https://bitters.co.jp/tabitohibi/




