長らく未解決だった名古屋主婦殺害事件。犯行から26年後、安福久美子容疑者が警察に出頭してきた。被害者の家族と警察の執念が実った瞬間だった。学生時代は「大人しいタイプ」だったという彼女は、なぜ凶行に及んだのか。配信中の「週刊文春 電子版」および発売中の「週刊文春」より記事の冒頭を抜粋してお届けする。

喫茶店で突如泣き出した女

 愛知県豊橋市内にある昔ながらの喫茶店で、ひと組の若い男女が向かい合って座っていた。高度経済成長も終わりを迎えた1975年のことだ。

 男は私立大学の学生で、女は受験浪人中の身だった。

「やっぱり君の気持ちには応えられないよ」

ADVERTISEMENT

 男がそう告げると、女は突然号泣し始めた。店内の他の客から見れば、その様子はよくある男女の痴話喧嘩のようにも見えたかもしれない。だが、男は困惑しつつ内心こう思っていた。

「大学まで勝手に押しかけて来て、なんで泣かれなきゃいけないんだよ……」

 それから24年後。女は情念を募らせ、男の妻に対して、刃物を振りかざした――。

「犯行は当時2歳だった息子の目の前で」

 それは1999年11月13日の昼頃のことだった。名古屋市西区のアパートに住む主婦・高羽奈美子さん(当時32)が、何者かによって刺殺されたのだ。

「犯行は当時2歳だった息子の目の前で行われた。奈美子さんは血まみれの状態で、廊下にうつ伏せで倒れ込んでいた」(全国紙デスク)

奈美子さん、息子の航平さんと 写真は高羽悟さん提供

 奈美子さんは、95年7月7日、11歳上の悟さん(69)と結婚。2人は不動産会社の同僚だった。

 悟さんの妹が回想する。

「家族思いの優しい方でした。嫁と姑って世間では色々あると思うけど、ウチの母とは本当に仲良しで、一緒に台所に立ってお喋りしながらよく料理をしていた。父の腰が悪かったときは奈美子さんが『一緒に接骨院に行きましょう!』って元気よく言ってくれてね。気さくないい子だと思って、いつも見ていたんです」

 だが、仲睦まじい一家の生活は、ある日突然、切り裂かれた。

「犯人はすぐさま逃亡したが、奈美子さんともみ合った際に手に怪我をしたと見られ、玄関先に血痕と靴跡を残していた。目撃者もおり、DNA鑑定で犯人の血液型はB型、性別は女、年齢層は40〜50代と判明した」(前出・デスク)

 これだけの証拠が残っていたため、犯人の逮捕は時間の問題だと思われたが、捜査は難航した。

「警察は奈美子さんの関係者を全て洗ったが、何も出てこなかった」(同前)

 以来、悟さんの“孤独な闘い”が続いた。現場保存のために犯行現場のアパートの家賃を払い続け、その金額は2200万円を超えた。情報提供を求めるビラも配り、数々のメディアからの取材も受け続けてきた。

犯行現場となったアパート ©時事通信社

 そして、26年の歳月が経った2025年10月30日。1人の女が、名古屋の西警察署に出頭した。

〈この続きは「週刊文春 電子版」および11月6日(木)発売の「週刊文春」で読むことができます。記事全文では「高校時代高羽悟さんに2度チョコ、大学でもフラれて号泣」「『鉛筆が当たって』息子の入学式で同級生保護者に激高」「夫は名古屋大学卒一流自動車部品メーカー勤務のエリート」「『私がいる間に絶対捕まえる』昨春赴任強面刑事の執念」などのトピックを詳しく報じています〉

次の記事に続く 《名古屋主婦殺害》「今夜、犯人を逮捕します」同級生の逮捕を知った被害者夫は絶句した「まさか、あんな大人しい子が…」なぜ、凶行に及んだのか