「米不足? 安心して、V系バンドマンが作ってるから」

 夜を背景にアンニュイな表情で佇むピンク髪の男性が、青空の田んぼでコンバインを操縦している……? 意外すぎる取り合わせでバズったのが、ビジュアル系バンド「曇りのち、」のドラマー・魅影(みかげ)さんだ。

「好きなことをやって生きろ」という教えのもと音楽活動に邁進していた魅影さんだが、45歳の父親が突然亡くなってしまい、思いがけないタイミングで跡を継ぐことに。「農業×ビジュアル系バンドマン」という生活を始めて10年。両立生活の実態について聞いた。(全3回の2回目/続きを読む

ADVERTISEMENT

魅影さん ©文藝春秋 撮影・山元茂樹

◆ ◆ ◆

——農業はまさにフルタイムの仕事の代表というイメージですが、バンドとの両立って可能なんですか?

魅影 できますよ。というかバンドマンに農業はすごいオススメです。

——どういうことでしょう?

魅影 自分でもキツイかなと覚悟してたんですが、米農家って想像よりずっと自由なんです。5月の田植えと8月~9月の稲刈りの時期はたしかに忙しくて、朝7時から夜の7時までご飯も食べずにぶっ続けで作業して、夜はスーパーで半額のお惣菜を買って食べたらすぐに寝ちゃう生活です。

コンバインを操る魅影さん

 でもピークの時期以外は作業は1日4時間くらいですし、作業する時間帯も選べるのでバンド練習の時間は会社員よりも作りやすいと思います。冬の時期は昔バイトしてた工場から「人手足りないから手伝って」って連絡がきて、その手伝いに行くこともありますよ。

「田舎はアルバイトでも髪色のルールが厳しいところも多くて」

——意外と時間の融通はきくのですね。

魅影 あと、田舎はアルバイトでも髪色のルールが厳しいところも多くて苦労したこともあったんですけど、農業は見た目が関係ないので。

 バンド活動だけで食べていけるようになるまでほとんどの人はバイトとかけもちですし、音楽の道を諦めて就職する人も多いんです。でも自分はお米作りの仕事があるから卒業を考えたことはありません。忙しい時期の大変ささえ乗り越えれば、実はバンド活動と農業の相性はかなり良いんですよ。

消防士と米農家の兼業だった父親は魅影さんの憧れ

——繁忙期はさすがにお米が優先ですか?

魅影 基本的にはお米優先なんですけど、稲刈りの時期って夏休みなのでツアーが入ることが多いんですよね。バンドとして出たい大事なイベントがある時は、メンバーに自分の機材を渡して先に移動してもらって、自分は田んぼでギリギリまで農作業してから飛行機や新幹線で移動することもあります。