「ほぼ1年近くは準備しています」

「『ふれあいデー』は、博多総合車両所の総務科、福岡支社地域共生室とグループ会社のJR西日本コミュニケーションズが事務局となって準備を進めています。

 具体的なイベント内容の検討はだいたい3月頃からですね。ただし、それより前から前年度のイベントの振り返りなどもしていますから、ほぼ1年近くは『ふれあいデー』のために動いていますね」

 こう話してくれたのは、JR西日本福岡支社地域共生担当の西川真之介さん。

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 車両基地の通常業務は車両の留置や検査、修繕。だから年に一度の一般公開イベントは“特別な業務”ということになる。しかし、それでも1年近くかけて入念に準備をしているのだ。

 

 西川さんによれば、準備が本格化する3月以降は事務局の定例ミーティングを毎週開いていたという。とはいえ、「ふれあいデー」は長年続いているイベントだ。だから基本的には前年の内容を踏襲しつつ、具体的な展示内容(コンテンツ)の検討を進めていく。

車両のスケジュール調整も大変

 博多総合車両所総務科で「ふれあいデー」を担当する佐藤宏樹さんは、「それぞれの部署でコンテンツの検討から必要備品やスタッフの手配などを進めていく」とした上で、次のように説明する。

「新幹線の運行に支障がないことが大前提。そのため、車両基地の中でも去年使っていた留置線が今年は使えないとか、そういうことがあるんです。なので、同じコンテンツでも去年と場所が変わったり。また今年は16両編成の車両は万博輸送もあって使えず、運転台見学などは8両編成の車両を使っています」

 

 車両基地にずらりと並んでいる車両を見ると、新幹線の車両はずいぶんたくさんあるのだなあ、などと思ってしまう。しかし、実際にはそれほど余裕があるわけではない。

 特に繁忙期、運転本数が多い時期にはなおさらだ。そこに定期的な実施が義務づけられている検査のスケジュールも加わると、来場者が喜ぶような車両を基地に揃えるのはそうそう簡単ではない。

 早い段階から、綿密に車両運用の計画を練り上げてようやく実現するのである。

イベント会社にも丸投げしない

「イベント当日にも、検査のために引上げ線に2編成ほど停まっていて、その日のうちに仕業検査という検査を終えてすぐに営業運転に入っています。イベントで使う車両も普段は営業運転をしている車両ですし、営業に支障が出ないように、ギリギリまで調整を続けています」(佐藤さん)

 こうした事情に加え、職員の確保も大きなテーマ。「ふれあいデー」当日には車両基地の職員に加えて駅員や乗務員、またグループ会社のスタッフを含めて約570名が従事している。

 もちろん「ふれあいデー」も仕事の一環だから、通常の業務に支障がないような人員手配も現場の仕事。それだけでも「ふれあいデー」の準備が一筋縄ではいかないことがよくわかる。

 

「各コンテンツでも実際に参加する人たちが意見を出し合いながらやってくれています。また、昨年の反省を活かして変更したこともあります。

 たとえば、去年は運転台見学を抽選制にしていたところ、今年は希望する方全員に。抽選にすると、かえって抽選する場所の混雑につながるんですね。そういうことも考えて、あとは来場者の動線も考えて……」(西川さん)

 言われてみれば、5000人規模のビッグイベント。普通ならばイベント会社に丸投げしてもおかしくない規模だ。

 ただ、実際に運行中の新幹線車両基地という特殊な会場で行われるということもあり、仕切りはすべてJRによる。これができるのも、毎日数万人もの輸送を続けている鉄道会社ならでは、といったところだろうか。