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事件関係者の凍り付いた心の壁を溶かし、扉を開かせる
手記の獲得は単純に特ダネと呼べるようなものではないが、それは凄惨な事件の謎を解くピースの一つになった。両親の手記は『「少年A」この子を生んで……父と母 悔恨の手記』として刊行され、2000年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」スクープ賞を受賞した。
「両親の手記を刊行するに当たって」という文章を書いたのは彼女だが、署名はない。一番最後のページに、構成者として、森下香枝の名前が1行だけ出てくる。
大きな事件が起きたとき、毎回、メディアによる過熱取材が問題になる。それを念頭に置いたうえで、事件関係者の凍り付いた心の壁を溶かし、扉を開かせる手立てはあるのだろうか。
森下の場合は、「コンパッション」という意識を持つように努めているという。コンパッションとは、相手の苦しみを深く感じ、軽くしてあげたいと思う感情や態度のことだ。
「それは、できるだけ相手を理解して、寄り添うという気持ちではないでしょうか。私は字も汚いし、下手な手紙ですが、相手の気持ちになって、心を包むような気持ちで一生懸命書いています」
