理想のキャラとの結婚はなぜ批判されたのか

――近藤さんの行動は、なぜ炎上したのでしょうか。

近藤さんが受けた強烈なバッシングの根底には、多くの人が抱える「人間は人間と恋愛し、結婚すべきだ」という性的な規範が働いていたと私は感じています。

彼の行動は、この規範から逸脱しているため、まず単純に「気持ち悪い」「頭がおかしい」と感情的に拒絶されたのではないでしょうか。実際に、嫌がらせが最も多かったのは結婚式を挙げる直前だったと、近藤さん自身が語っています。

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ただ、批判が激化したもう一つの大きな理由は、彼がある種の「活動家」として振る舞っている点にあると考えています。

彼は初音ミクの等身大人形を連れて同人誌の即売会へ出かけたり、「前例をつくりたい」という思いから、ディズニーランドへ等身大ミクさんを連れて行くことを計画したりしました。このような行動は、彼のフィクトセクシュアルというセクシュアリティを社会の「公の場」に現出させるものであり、世間に対して「私たちはここにいる」と可視化するメッセージとなりました。

彼の活動は、異性愛規範の安定を望む人々から見れば、既存の社会秩序を壊す、過激な挑戦と映ってしまったのではないでしょうか。ディズニーランドの件で苦情が殺到し、入場を断られてしまったことは、彼が「人と違う」というだけで叩きやすい道具にされてしまったことを象徴していると感じています。

近藤さんから「本当の愛」を感じたのか

――取材を通して近藤さんと初音ミクとの関係をどのように感じましたか。

近藤さんを取材してまず感じたのは、彼の初音ミクに対する強い「愛」です。

たしかに世間からは、初音ミクとの結婚に対し「女性蔑視だ」「本当は愛していないのでは」という強烈なバッシングがありましたが、少なくとも私が見てきた彼と初音ミクとの関係は自己愛の延長のようなものではありませんでした。

なぜそう感じたのかというと、さきほど紹介した女性蔑視的なロジャーを取材した経験があったからです。ロジャーは女性嫌悪を背景に、人形を「自分の承認欲求」のために道具的に扱ってしまう傾向がありました。彼は女性の個性や人格を認めず、人形を自分の都合の良い女性像に当てはめるのに対し、近藤さんの振る舞いはそうしたものとは本質的に異なっていたのです。