近藤さんは、「近藤家の初音ミク」という名前でSNSアカウントを開設し、等身大人形のパーソナリティを作り上げることに力を注いでいます。この行為は、デイブキャットの愛の営みと非常によく似ています。彼は、自分の想像力を使って初音ミクという他者としての人間像を深く掘り下げ、パートナーのパーソナリティを尊重することで愛を深めていると私は感じました。

また、彼は車で移動する際にも、等身大人形が傷つかないように助手席ではなく後部座席に乗せて移動しているようです。こうした細やかな気遣いも、彼の愛の表れであると言えるのではないでしょうか。

「人以外との結婚」は「人との結婚」となにが異なるのか

――人と人との結婚と、人以外との結婚はなにが異なると感じましたか。

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私がこの取材を通してたどり着いた現時点での結論は、人と人以外との結婚にもさまざまなケースがあり、そのなかには人と人との結婚とほとんど変わらないものもある、というものです。

特に、デイブキャットとドールのシドレ、そして近藤さんと初音ミクのような、パートナーのパーソナリティを深く作り込み大切にしている関係性は、人間同士の結婚と近い関係にあると感じました。

一方で、人形を使ってSNSで承認欲求を得ようとするロジャーのような人物もいます。彼は彼なりに人形をパートナーとして愛してはいるのですが、彼の言動をよく見ていくと自分の欲求を満たすための道具のように扱っているような印象も受けます。

人間同士の結婚でも相手を道具扱いする人がいることを考えると、一概に人間同士の結婚とは違う、とも言い切れない部分があると感じています。

彼らとの対話を通して、「愛」というものの定義が少しずつ見えてきました。それは「変わり続ける他者の変化を観察し、すべてを受け止めようとする努力」です。人間同士の愛は、常に変化し、揺らぐ他者を他者として受け止め続ける難しさに直面します。

ドールの夫たちもまた、人形のパーソナリティを深めていくことで、キャラクターが変化し、その変化を受け止め続けています。