「小さな変化」を受け止めるところに愛がある
――「変化を受け止める」とはいうものの、それはドール・ユーザーが一方的に設定を加えているだけではないでしょうか。
もちろん、人形は自律的に変化していくわけではありません。あくまでも人間側が変化をつけていくわけですから、人間同士のように予期せぬ変化を受け止めることはないように思えます。人形は病気になることもありませんし、不倫することもありません。ただし、劣化したりメンテナンスが必要になったりするなど、人形側からの発信ともいえる変化の仕方もあります。
ですが、SNS上での人形アカウントの交流によって、予期せぬ変化が起きることもあるようです。
たとえば、デイブキャットはシドレのSNSで友人から「日本に親戚はいるのか」と聞かれ、そのことで「シドレには日本にチンピラのおじさんがいるらしい」ということを“思い出した”と語っていました。「思いついた」ではなく「思い出す」と表現するところがドールの夫らしい語り方ですが、このようにSNS上の交流によって新しいプロフィールが追加されることもあるようです。
人間同士ほどの劇的な変化があるわけではありませんが、それでも彼らは人形との間に起きている小さな偶然の変化を受け止め、そのことによって関係性を深めています。
ロジャーのように人形を愛しているものの、結果的に承認欲求を満たすための道具のように使ってしまっているケースもあれば、近藤さんの場合はパートナーである等身大人形に対してさまざまなプロフィールを与えて変化を起こし、そのことでより相手のことをより深く理解しようとしています。
人間以外のものとの結婚、という馴染みのない関係性には驚かされることも多いのですが、彼らの振る舞いや人形への接し方に注意深く触れていくと、そこには我々がよく知る「愛」や「結婚」の一端を感じることができるのです。
ノンフィクションライター
1977年、広島県生まれ。2000年、早稲田大学第一文学部卒。2024年、京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程単位取得退学。著書『聖なるズー』(集英社)で2019年に開高健ノンフィクション賞受賞。新刊に『無機的な恋人たち』(講談社)がある。
