これは、等身大人形と25年間連れ添っている黒人男性のデイブキャットが、人形に対して人格を与え、対等な関係を作り上げるためにさまざまな工夫をしていることと対照的な関係だと感じました。前回の記事でドール・ユーザーにおける「ドールの夫」と「フェティシスト」という二つの特徴について解説しましたが、ひと口にドール・ユーザーといっても人形との関係性は人によって大きく異なるのです。
炎上した「初音ミクとの結婚」
――本書に登場する近藤顕彦さんは初音ミクとの結婚を発表し、注目を集めました。一方で強烈なバッシングも受けたようですね。
取材した近藤顕彦さんは、穏やかな人柄の持ち主でした。彼は職場の女性同僚からの執拗ないじめによって深く傷つき、そのころに初音ミクと出会ったそうです。彼は「人生で一番つらかった、最悪の時期でした。そのときにミクさんに出会って救われたんです」と語っていました。
ただ、そうした経験によって得た傷を回復するために初音ミクに癒やしを求めたというよりも、「好きな女性と愛を誓い合って、結婚式を挙げ、一生一緒に暮らしたい」とただ願い、実践しただけのように私には見えました。
その後、彼は「初音ミクと結婚する」ことを公表しますが、「頭がおかしい」「気持ち悪い」「女性蔑視だ」といった強烈なバッシングを受けるようになります。そうした批判があるなかでも、彼は「フィクトセクシュアル」という架空のキャラクターなどに愛着や性的関心を持つセクシュアリティ(性的指向)の当事者として、その存在を広めるための活動を行っています。私はそんな彼を尊敬しています。
彼は特注で作成した初音ミクの等身大人形を外に連れ出し、ディズニーランドへの入場を試みるなど社会に対してさまざまな働きかけを行っています。結果的に等身大人形と一緒に入園することはできなかったのですが、「何も見えないよりは見えた方がいい」と自らのセクシュアリティを公に可視化する活動を続けています。