「ホステル」が2〜3ドルをピンハネ

 農場で働く日本人のSNSグループやインターネットのページには、悪徳業者に騙されて賃金が払われなかったり、ビザ延長のために必要な書類を作成してくれなかったり、といた事例が数多く報告されている。しかし、業者が別名で募集をかけたり、日本人に仲介料を払って募集をかけたりすることもあるため、トラブルに陥る若者があとを絶たない。

 筆者がインタビューを行ったグリフィス大学のカヤ・バリー氏によれば、クイーンズランド州では「ホステル」と呼ばれる安宿が人材斡旋業を兼ねていることが多く、宿を安く提供する代わりに時給から2~3ドルをピンハネするというシステムが常態化している。欧米からの若者たちも最低賃金以下の時給で働かされていることがあるが、日本人を含むアジア人の時給は欧米人の時給と比べてもさらに低く設定されているとのことであった。

住み込みで家事・育児をする「オーペア」の問題

 オーペア(au pair)は、海外のホストファミリー宅に住みこみで家事・育児のサポートを提供することで文化交流や語学学習を行うというもので、欧米の若者の間では短期の海外経験として広く人気を博してきた。日本でも少しずつ知られてくるようになり、「オーペア留学」というキャッチフレーズで留学・ワーキングホリデーの斡旋業者が宣伝を行っている。通常のホームステイのように家賃や食費を支払う必要がないため、コストをかけず海外経験を積みたい若年女性の関心を集めている。

ADVERTISEMENT

©beauty_box/イメージマート

 各国が詳細な統計をとっておらず、グローバルなレベルでの全体像は不明であるが、その数は増加しつつあると指摘されており、ドイツでは2011年の段階で360ものオーペア斡旋業者が存在し、そのうち一社では16万2000名にのぼる海外のオーペア志望者と4万9000のドイツ人受け入れ家族が登録していた。豪州では2014年時点で1万人以上のオーペアが滞在していると推計されている。男性のオーペアも少数いるが、圧倒的多数が若年女性である。

 オーペア制度にとっての最大の課題は、多くの国がオーペアを国際理解プログラムと位置づけており、労働法から除外する、あるいは豪州のように法的・制度的なグレーゾーンに位置させていることである。労働者性がフルに認められないため、オーペアは「賃金」でなく少額の「手当」のみを受け取る。また、ホストファミリーは1ヵ月前の解雇通知を出す義務もなく、オーペアはある日突然仕事と住居を失うこともある。

セクハラ、パワハラを受けることも…

 香港やシンガポールの家事労働者のように渡航・帰国費用を雇用主に支払ってもらうこともなく、雇用契約を結ぶことすらできない。このため、オーペアの待遇はホストファミリー次第になってしまい、運良く親切なホストファミリーに当たれば良いが、そうでない場合には交渉の余地がない場合がほとんどで、ホストファミリーの都合によって内容が一方的に変更されることもある。

 オーペアは最低賃金を大幅に下回る報酬で家事・育児サポートを提供することが多く、筆者らの調査では日本人女性の平均時給は約5豪ドル(約480円)と、最低賃金の約5分の1であった。労働内容も政府が定めた「12歳以下の子どもの保育と限定的な家事」という範囲を大幅に超えており、掃除・洗濯・料理だけでなく、ガーデニング、洗車、ペットの世話、糖尿病を患う子どものインシュリン注射を強要された者もいた。

 セクシャルハラスメント(セクハラ)やパワーハラスメント(パワハラ)などを受けても、辞めると住居と収入を一度に失ってしまい、その場合に外国人が短期で住める賃貸物件が限られているため、忍耐を強いられる場合が多い。

次の記事に続く 米国大学卒業後に「就労ビザを出す」と騙され、5年以上拘束された日本人女性も…“永住権取得”にまつわる不安《家族と連絡も取れず》

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。