飲食産業における日本人の賃金はかなり低い
豪州において日本人の若者の圧倒的多数が就業するのが飲食業であり、その職場のほとんどが日本食レストランである。「和食」はユネスコの無形文化遺産に認定されるほどその価値が認められており、世界各国に多くの店が存在するが、豪州では特にその人気が高く、大都市には多くの日本食レストラン・居酒屋・カラオケ店が存在する。中国人・韓国人が経営する店のほうが多いと言われているが、日本人が経営する店もあり、日本から来たワーキングホリデー渡航者や留学生が店員として多く働いている。
こうした若者たちは日本人の多い場所で働くことを最初から望んでいるわけではないが、語学力の問題で仕事を得ることが難しく、一定の語学力とスキルがあるケースを除き、仕事を見つけることは容易ではない。
しかし、豪州の飲食産業における労働は最低賃金が支払われていないケースが常態化していることで知られており、日本食レストランもその例外ではない。豪州の法定最低賃金はフルタイムと毎週一定の労働時間が確保されたパートタイム職種の時給が24・95豪ドル(約2511円)、それ以外のパート・臨時雇用者は31・19豪ドル(約3139円)と高いが、飲食産業における日本人の賃金相場はそれよりかなり低いと言われている(注:本書では2023年のデータを記載)。
前出の日本ワーキング・ホリデー協会の調査ではワーキングホリデー渡航者および経験者が「賃金が最も低かった業種」として挙げたのが飲食業であった。メルボルンのビザサポート業者によると、3~4年前に政府の大規模な監査が入って以降、日本人が経営する店の状況は改善してきたが、中国人・韓国人が経営する店の時給はまだ低く、最低賃金の6~7割程度で働く日本人が多いとのことであった。
ワーキングホリデーに欠かせない「農業」
日本人に限らず、豪州で1年以上の滞在を希望するすべてのワーキングホリデー渡航者にとって欠かせないのが地方の農業など、労働力不足の分野における就労である。地方における慢性的な人手不足を補うため、豪州政府は地方振興政策の一環として「1年目に地方や一定の業種で88日以上働くとワーキングホリデー・ビザを1年延長、2年目に半年以上働くとさらに1年延長する」という制度をとっている。
地方の求人の多くが農業関係で、新型コロナウイルスの感染拡大の直前には、各国から集まった約13万人のワーキングホリデー・ビザの労働者が豪州の農業を支えていた。
豪州の農場主の多くが人材斡旋業者に労働者の手配を任せており、日本人の若者たちはこうした業者から仕事を紹介されている。日本のメディアでは農場での野菜や果物の収穫によって月50万円ほどの高給を得る若者の例が散見されるが、現実はそれほどバラ色ではない。農作業はハイレベルの語学力は必要でないものの、基本的な上司の指示を理解できるレベルは必要で、理解できず作業がうまくこなせなければ、すぐに失職してしまうこともある。
収穫の最盛期に1ヵ月50万円の給料を得られても…
また、ある農作物の収穫の最盛期に1ヵ月で50万円の給料を得られたとしても、収穫が終われば無職になり、タイミング的にすぐ他の仕事が見つかる保証はなく、仕事が見つかるまでは無収入になる。農場は地方にあるため、車の所有と運転免許証の所持を採用条件に出す雇用主も少なくない。だが、車を購入するための金銭的な余裕がない日本人の若者は多く、仕事がなかなか見つからないケースが多い。さらに、農業は天気に影響を受けやすいため、雨季が長引くと収入がないまま家賃を払い続けることになる。
