日本人の海外移住が注目を集めている。ワーキングホリデーの若者、子育て世代、富裕層、技術者や研究者、リタイア世代。日本をなぜ離れるのか。海外移住にはどんなリスクがあるのか。
移住研究の第一人者・大石奈々さんが、日本人移住者へのインタビューやデータをもとに実態に迫った話題の書籍『流出する日本人——海外移住の光と影』(中公新書)より、一部を抜粋して紹介する(全3回の2回目/続きを読む)。
(当記事では典拠を示す注記を省略しています。注記については中公新書『流出する日本人』でご確認ください)
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突然、帰国を余儀なくされる可能性が
移住者たちにとって、最も想定外となる課題は滞在国の急な政策変更だ。多くの国が、労働力の需給状況や国内の世論、政治的状況などによって、受け入れ職種やビザの発給要件を頻繁に変更する。現在、就労ビザが下りている職種でも、あるとき、突然更新を拒否されて、帰国を余儀なくされる可能性があるのだ。外国人の同僚が急に解雇されたり、帰国を余儀なくされたりしたとき、初めて自分の立場の脆弱さを実感したという人もいる。
永住権の取得に関しても同様だ。留学して学位や資格を取ったり、あるいはすでに就労ビザを持っていたりしても、永住権の申請資格を得る前に、自分の職種が申請可能な職種リストから外されてしまうこともある。
人生を狂わされることは、どの国でも起こり得る
ある30代の男性は、永住を視野に家族と豪州に移住しようとしたが、永住権申請が可能な職業リストに自分の職業が入っていないと知り、留学ビザで渡航した。専門学校に入学して、永住権申請が可能な歯科技工士の資格を取得するためだ。しかし、無事に卒業し、資格を得て喜んだのも束の間、永住権申請の直前になって、何と歯科技工士が職種リストから外されてしまった。その後、紆余曲折を経て、最終的に永住権を得ることができたが、長期にわたって心労の多い日々を過ごすことを余儀なくされた。
また、別の女性は、豪州の専門学校で調理師免許を取って無事に永住権を取得したが、翌年に調理師が職業リストから外れてしまい、同じ学校の後輩や友人たちは皆、永住をあきらめ、帰国を余儀なくされたという。永住するために高額な費用とエネルギーをかけて留学しても、突然のビザ要件の変更でこのように人生を狂わされることは、残念ながらどの国でも起こり得る。
