「永住ビザの申請をサポートする」と低賃金労働に

 富裕層であっても、海外において安泰な生活を送り続けられるとは限らない。ビザの更新は必ずしも保証されておらず、要件も変更が続くため、自分の経済的な状況の変化や政府の政策次第では更新ができなくなる可能性もある。富裕層でさえも外国人である限り、自分の滞在期間を完全にコントロールすることはできず、移住先の政府の意向に振り回されてしまうのが現実だ。

 こうした状況を知った人々の多くは、カナダや豪州など、入国前に永住ビザを取得できるスキームがある国への移住を検討する。専門職に就いている人に限られるが、ある移住コンサルタントは、申請可能なクライアントにはこのスキームで移住することを勧めているという。

 移住後に永住権を取得することは難しく、それまでのプロセスが不安定だからだ。ワーキングホリデー・ビザや留学生ビザで入国し、仕事を見つけ、就労ビザを得られる人々もいるが、語学のハードルもあり、永住権の取得にたどりつくまでには長い時間と経済的困難やストレスを伴うのが現状だ。

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 雇用主の中には、「身元保証人として永住ビザの申請をサポートする」と約束し、それを盾に低賃金で働かせながら、結局、約束を反故にしてしまうような人も残念ながら存在する。筆者がインタビューした中にもそうした被害を受けた若者がおり、結局新たなスポンサーが見つからないまま、就労ビザの期限を迎え、帰国を余儀なくされてしまった。

米国大学卒業後、5年以上拘束された女性も

 また、移住したことで人身取引の被害者となってしまうケースもある。筆者自身が直接救済に関わったケースだが、米国の大学を卒業後、「就労ビザを出す」という雇用主に騙され、拘束された状態で働かされてしまった日本人女性がいる。最終的に、米国政府から人身取引の被害者として認定され、永住権申請が可能なビザを取得することができたが、5年以上の長きにわたり、身体的にも精神的にも厳しい状況に置かれ、家族とも連絡がとれず、帰国することもできなかった。

©graphica/イメージマート

 こうしたケースはもちろん稀ではあるが、「就労ビザ」や「永住ビザ」の申請をサポートするという甘言で外国人を騙す悪徳業者はいる。特に最近では、SNS上でグループを運営していたり、海外移住や起業のサポートを謳う会社が増えているが、実際に調べてみるとプロフィールの情報を詐称していたり、「経営している」と称している会社が実際には存在しなかったりするケースもある。海外移住や起業を情報商材ビジネスの一部として利用し、中には悪用している人もいるようだと警鐘を鳴らす移住者もいた。

 日本人でも外国人でも、海外に移住したい人々を騙して利益を得ようとする人たちはいる。SNSやYouTubeなどの情報を安易に信じすぎることなく、本当に信頼に足る情報かどうか、また就職先の雇用主についても、自分自身で慎重に調べる必要がある。