日本人の海外移住が注目を集めている。ワーキングホリデーの若者、子育て世代、富裕層、技術者や研究者、リタイア世代。日本をなぜ離れるのか。海外移住にはどんなリスクがあるのか。

 移住研究の第一人者・大石奈々さんが、日本人移住者へのインタビューやデータをもとに実態に迫った話題の書籍『流出する日本人——海外移住の光と影』(中公新書)より、一部を抜粋して紹介する(全3回の1回目/続きを読む)。

(当記事では典拠を示す注記を省略しています。注記については中公新書『流出する日本人』でご確認ください)

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ワーキングホリデー中の仕事は限定的

 ワーキングホリデーは、多くの若者たちにとって、コストを抑えながら、海外で働き、語学を学び、経験を積むことができる貴重な機会となっている。異文化環境で、現地の人々や、外国人の友達を作って交流するなど、「世界が広がる」経験をしている若者は多い。語学力をつけたことで、帰国してからのキャリア・アップにつなげた人々もいる。

©Trickster/イメージマート

 ただ、滞在中の仕事は、業種・職種の面で非常に限られたものになる。渡航する若者たちの中には、大企業の正社員や、中小企業の主任や店長といった、スキルや知識を持つ人々が少なくないにもかかわらず、現地で実際にスキルを活かせる人は多くはない。語学のハードルが最も大きいが、ビザ上の制約もある。ワーキングホリデー・ビザは就労ができるものの、豪州では一人の雇用主のもとで働ける期間が6ヵ月までと決められているからだ。

76%が飲食産業に従事している

 コロナ禍の間はこの制約が緩和されていたが、2023年7月からまた復活した。ほとんどの雇用主は、できるだけ長い期間働いてくれる人を雇おうとするため、現地の豪州人が優先される。そのため、ワーキングホリデーの若者が雇われる職種は、現地の豪州人が希望しないものであることが多いのだ。

 2019年の日本ワーキング・ホリデー協会の調査では豪州におけるワーキングホリデー渡航者および経験者の76%が飲食産業に従事していた。続いて多かったのが農業(44%)、清掃業・小売業(各9%)、オーペア業(個人宅での家事・育児サポート業)(7%)である(複数回答)。これらの業種は労働力をワーキングホリデーの若者に依存しており、日本で農業・漁業、製造業が技能実習生を受け入れている状況に酷似している。