──バイト先では、学校に行っていなかったことは話したのでしょうか。

川口 隠していました。同世代のバイト仲間が集まると、だいたい学校の話題になるんです。「どこの中学だった?」「部活は何してた?」みたいな。でも私は答えられないので、ウソをつくしかなくて。「大阪の学校に通ってた」「帰宅部だった」とか、その場しのぎで適当に答えていました。

──話を合わせるためにウソを。

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川口 学校の話題をふってくる相手に悪気がないのはわかっていたし「学校へ行かなかったのは私のせいじゃない」とも思うんですよ。でも、その話題が出るたびにウソの数が増えるのが心苦しかったし、うまく答えられない自分に罪悪感がありました。

「私がおかしいんじゃなくて、うちが異常だったんだ」

──社会に出て「小学校、中学校に1日も通わなかったこと」の影響を実感したのですね。

川口 そうですね。この頃やっと「私がおかしいんじゃなくて、うちが異常だったんだ」と気づきました。それであるとき、バイト先のオーナーに義務教育を受けていないことを打ち明けたんですよ。ところが姉も同じバイト先で働いていたので、その話が姉経由で母に伝わり、家族会議が開かれました。

──どんな家族会議だったのでしょう?

写真はイメージ

川口 「なんで他人にそんなん言うん?」「16にもなって、言ったらあかんこともわからんのか」「おまえは何もできん」「おまえなんか人に好かれるわけない」など、2人がかりですごい剣幕で詰められました。

 特に、姉に言われた「妹が小中に通ってないなんて、恥ずかしくて人に言えんわ」という言葉は忘れられません。私は家族にとって“恥ずかしい存在”なのか、と大ショックを受けました。母と姉からの責め言葉がグサグサ刺さり、私は何も言い返せず「ごめんなさい」を繰り返すしかありませんでした。

「男性と出会うとすぐ体の関係を持ちました」

──やっと外へ出られたと思ったら“恥ずかしい存在”に。

川口 私の中で「死にたい」「逃げたい」という気持ちが徐々に膨らみ、その苦しさから逃れるために出会い系にハマりました。相手の男性には下心しかないとしても、私に優しい言葉をかけてくれるし、認めてくれる。それがうれしくて、男性と出会うとすぐ体の関係を持ちました。相手に求められることで「私は必要とされている」と感じて、どんどん依存していったんです。

──家族以外の誰かに受け止めてほしい、という気持ちは自然だと思います。

川口 その頃は家族関係が最悪で、毎日がストレスの連続でした。母と姉は会話もなく食事も別、ほぼ家庭内別居状態。私自身も「どうせ自分は家族の金づるでしかない」という不満が募っていました。頭の中はいつもぐちゃぐちゃの早送りのようで、17、18歳の頃はリスカや鎮痛剤のオーバードーズを繰り返していました。

──「家を出る」という選択肢はなかったのでしょうか。

川口 当時の私はまだ「姉と仲良くなりたい」と思っていたんです。恨む気持ちもありつつ、もしかしたら仲良くなれるんじゃないか、認めてもらえるんじゃないかという淡い期待がありました。そういう矛盾を抱えてドロドロしていました。

──付き合っている男性や、公的機関などの助けを借りることは考えませんでしたか?

川口 それも難しかったです。あるとき、姉と大ゲンカをして家を飛び出したんですよ。深夜の公園にいたら警官に声をかけられ、事情を話すとパトカーで家まで送ってくれました。でも「家に戻ったら、姉に何をされるかわからない……」と思うと、パトカーから降りられずに固まってしまいました。すると、警官が「家まで一緒に行こうか」と言ってくれたんです。