「お兄さん、今って仕事してます?」――炊き出しの列で声をかけてきたのは、見知らぬ“作業服の男”だった。月25万円、寮完備、明日から働けるという甘い誘い。しかし、その場にいた別の男性は「付いていかないほうがいい」と小声で忠告する。路上で密かに繰り返されるこの“謎の勧誘”は何なのか? ライターの國友公司氏の新刊『ルポ 路上メシ』(双葉社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む

路上生活者が集まる上野公園の中の施設(写真:筆者提供)

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「お兄さん、今って仕事してます?」

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 2024年4月、昼の11時。代々木公園南門で行われている炊き出しに並んでいたときのことだ。作業服を着た40代の男に声をかけられた。男は炊き出しのボランティアスタッフとはまったく無関係のようで、運営陣の様子を気にしつつ、こっそり私に声をかけてきた。

「いや、一応、仕事はしているんです。ただ、出勤もまちまちで給料も安いので、食べ物だけもらいに来ているんです」

 そう話を濁してやんわり断ろうとするも、「どんな仕事してるの?」と食い下がってくる。男は東京都あきる野市にある建設会社の社員だという。主に道路工事と解体の現場を請け負っており、労働者を募集しているそうだ。

「明日からでも働ける」

「もし家がないなら、今から車で会社の寮まで連れていくよ。明日からでも働ける」

「だから、仕事しているって言っているじゃないですか」

 少し強く言ってその場を去ると、様子を見ていた60代の男性が私に声をかけてきた。

 その男性も炊き出しの行列に並んでいたのだ。