炊き出しで配られるのは、やけに豪華な弁当――しかし、その背後には“ある意図”が潜んでいた。上野で密かに行われる“貧困ビジネス”の実態を、ライターの國友公司氏の新刊『ルポ 路上メシ』(双葉社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)
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「うまい弁当が食えるぞ」
中には手配師自身が炊き出しを行っていることもある。2021年の路上生活体験取材中、上野公園の炊き出しでもらった食パンをジャムもバターもつけずに水で流し込みながら食べていると、私のことを不憫に思ったのか、70代のホームレスがこんなことを教えてくれた。
「水曜日の13時、上野駅入谷口の前に行ってみろ。うまい弁当が食えるぞ」
その日は火曜日だったので、さっそく翌日訪れてみると、上野駅の東側と西側を繋ぐ歩行者用のスロープに80人近い行列ができていた。
先頭にいるのは作業服を着た角刈りの50代男性。すでに食料の配布も始まっているので、私も最後尾に並んでみる。
「はい、どうぞ。はい、どうぞ」
男は袋に詰めて持ってきた弁当を次々に渡していく。その際、顔を一瞥するのだが、いつも来ている人や高齢者であることを確認すると、すぐに後ろの人間に目線を移す。
そして、私の順番が来たときだった。男は弁当を渡す手をピタッと止め、今までベルトコンベアのように進んでいた行列を止めて勧誘をしてくるのだ。
「兄ちゃん、ここ来るのは初めてだよな。今は仕事してるのか? 自分でメシ食うには、働いて自分で金稼がないとな」
この近くにあるという男の会社は解体現場のみで、道路工事はほとんど請け負っていない。寮に入ってもいいし、日雇いでもいい。「働く気があるなら、この弁当を食って明日からでも来い」と言う。そんなことを言われた手前、弁当だけもらって逃げるのは非常に後ろめたい。
「ちょっと考えて、また来週ここに来ます」
ひとまずそう答えて、その場をやり過ごした。
