映画『国宝』が11月24日までの公開172日間で観客動員1230万人超、興行収入173.7億円を記録し、邦画実写作品の歴代最高興収を更新した。これまでトップだった『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003年/173.5億円)を超え、22年ぶりに記録を塗り替えた。

 主演を務めた吉沢亮は、11月15日に行われた「第17回TAMA映画賞」の授賞式で最優秀男優賞を受賞。昨年も『ぼくが生きてる、ふたつの世界』でろう者の両親を持つコーダの青年を演じて同賞を受賞しており、2年連続での最優秀男優賞(女優賞も含め)受賞は同映画賞始まって以来の快挙だ。

吉沢亮 ©時事通信社

『国宝』は、吉田修一氏が2018年に発表した同名小説を、李相日監督が圧倒的な映像美で映画化したもの。任侠の一門に生まれながら、歌舞伎の世界に飛び込んだ喜久雄(吉沢亮)が芸の道に人生を捧げ、やがて“国宝”と呼ばれる存在へと至るまでの壮絶な歩みを描く一代記だ。吉沢は、義兄弟役の横浜流星と、四代目中村鴈治郎のもとで約1年半の稽古に励み、この難役に挑んだ。

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 映画は約3時間の超大作であり、筆者は集中力を保てるかと心配したが、まったくの杞憂だった。あらゆるものを犠牲にし、関わる人を皆傷つけ、その反動で自分も傷つき、ボロボロになりながらも、ただひたすらに“美”を追い求める喜久雄。その狂気を、命を削るような熱演で体現する吉沢から一瞬たりとも目が離せなかった。「共感」も「応援」もなく、気づいたら涙が溢れる経験は初めてで、心震えるとは、まさにこのことかと思わされた。

「国宝級イケメン」ならではの苦悩も…

 劇中、喜久雄が田中泯演じる人間国宝の歌舞伎役者・万菊から「役者になるんだったら、その美しいお顔は邪魔も邪魔。いつかそのお顔に自分が食われちまいますからね」と言われるシーンがある。

 その瞬間、喜久雄と吉沢の人生がシンクロした。吉沢も思わずうっとりするほど端正な顔立ちの持ち主だが、10代~20代の頃は顔の印象が強く、まっすぐ芝居を見てもらえないことに苦悩したそう。

『国宝』公開後の6月20日に出演したトーク番組『スイッチインタビュー』(NHK Eテレ)でも、「役作りで無駄に太ってみたり、芋っぽく見せることにすごく注力している時期」があったと語っていた。