ことさら“国宝級イケメン”と呼ばれることへの反発心もあるのか、三枚目の役も違和感なくこなしてきた吉沢。特に印象深いのは映画『青くて痛くて脆い』だ。吉沢演じる平凡な大学生が勝手に同族だと思っていた女子学生への卑屈な感情を募らせ、復讐に取り憑かれていく様は強烈の一言。女子学生が心底軽蔑した顔で放つ「きもちわる」という台詞に説得力のある、ただただ未熟で痛々しい若者を見事に演じていた。

 コミカルな演技にも定評があり、『国宝』の直後に公開された映画『ババンババンバンバンパイア』でも15歳の男子高校生の純潔を守るべく、あらゆる手を使って初恋を阻止する450歳のバンパイアに扮する吉沢の突き抜けた演技が話題に。2作品続けて鑑賞した人からは「温度差で風邪引きそう」という声も上がっていた。

『ばけばけ』は“大河ドラマのB面”

 吉沢はまさに芝居の温度感を自在に操る役者であり、現在出演するNHK連続テレビ小説『ばけばけ』にも欠かせない存在だ。明治時代の作家・小泉八雲(パトリック・ラフカディオ・ハーン)とその妻・小泉セツをモデルにした夫婦の物語で、制作統括の橋爪國臣やチーフディレクターの村橋直樹など、吉沢主演のNHK大河ドラマ『青天を衝け』を手がけたスタッフが集結している。

ADVERTISEMENT

(左から)寛一郎、吉沢亮、北野秀気、濱正悟、田中亨、髙石あかり(『ばけばけ』公式Instagramより)

『青天を衝け』の主人公・渋沢栄一は“日本資本主義の父”と呼ばれ、明治維新後、官僚を経て日本初の銀行「第一国立銀行」など、約500社の設立と運営に携わった。いわば新時代を築いた一人だが、本作が描くのは没落士族の娘であるヒロイン・トキ(髙石あかり)をはじめとする時代に取り残された人々であり、『青天を衝け』のB面の物語とも言える。

 身分も特権も剥奪された武士たちの転落劇や、激しい経済格差、結婚するか身を売るかの二つに一つだった女性たちの生きづらさなどもシビアに描かれるが、脚本家・ふじきみつ彦の独特のユーモアセンスと温かい眼差しによって、観るのが辛くない作品に仕上がっているのが特徴だ。

(左から)トミー・バストウ、吉沢亮(『ばけばけ』公式Instagramより)

 とはいえ、第6週から第7週にかけてはシリアスな展開が続いた。父親が作った借金を返すため、英語教師として松江に招聘されたヘブン(トミー・バストウ)の女中になることを決意したトキ。だが当時、異人の女中は、家事だけでなく夜の相手も務めるラシャメン(洋妾)として人々から蔑まれていた。そのため、家族にも言い出せず、いつ身体を求められるかと人知れず怯えるトキの姿に胸が痛くなった視聴者も多いだろう。

 かと思いきや、ヘブンがトキをただの女中として雇ったことが判明し、第8週では2人が言語や文化の違いに悩みながらも、少しずつ心の距離を縮めていく姿がコミカルに描かれた。