「編集から『別の主人公で書いてみたら』と言われ…」

『ミナミの春』は大阪のミナミあたりを舞台にした連作短編なのですが、一応連作なので、ラストに向かって大きな1本の流れになるように、とはじめにプロットを作ったんですけれども、もちろんそこからどんどん離れていってしまって。もう書いてる途中で「これにどうやってケリをつけようか?」と自分でも不安になってくることが何回もありました。でも、そこでは「まあ。何とかなるか」と思って、短編を書き進めていったところがあります。

 それで、なんとか最終話に辿り着いて、結構いいラスト思いついたと思って、担当さんに見せたんですね。そうしたら「いや、これはちょっと……」と速攻で却下されまして(苦笑)、「別の主人公で書いてみたら」って言われたんです。それで書いたのが、今あるラスト(「ミナミの春、万国の春」)なんですけれど、それが本当にうまくはまって、あのアドバイスがなかったら、この受賞もなかったんじゃないかと思っています。だから本当にあの時アドバイスしてくださった編集の皆さん、本当に大感謝です。

「読者をねじ伏せるような作品を書きたいと思っていた」

 自分語りで申し訳ないんですけれども、私は今までとにかく凄まじいものを書きたいとずっと思っていたんです。だから読者が喜んでくれるような作品ではなくて、読者をねじ伏せたり、打ちのめしたりするような作品を書きたいと思っていました。

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 でも、今作『ミナミの春』では、そんなことは一切考えずに、割と緩く力を入れずに書いたところがあって、結果、それがなんか新しい自分の何かを引き出してくれたような気がします。デビューして16年目にしての新しい挑戦なんですけれども、それが本当にうまくいったからこの賞に繋がったと思って、本当に皆様に感謝しております。

 この16年目の挑戦がようやく成功したんですけれども、この挑戦はまだまだ新しいことをやっていいと言われているような気がします。ですからこれにとどまらず、どんどん新しいものを、新しい挑戦をしていきたいと思いますので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 

 最後になりましたが、選考委員の皆様、お世話になりました皆様、そして、今日は会場に来ていないんですけれども、ずっと私を支えてくれた家族に感謝を伝えたいと思います。

 どうも本日はありがとうございました。

第16回山田風太郎賞を『神都の証人』で同時受賞した大門剛明さん(右)と遠田さん

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 大阪・ミナミを舞台に、人の「あたたかさ」を照らす群像小説『ミナミの春』。売れない芸人を続ける娘、夫の隠し子疑惑が発覚した妻、父と血のつながらない高校生……様々な人々の人生が交錯し「悲しいことはあるけれど、最後には笑えるよ」というあたたかさが、本書の魅力。山田風太郎賞の受賞を機会に、ぜひ多くの読者に手に取ってほしい作品だ。

ミナミの春

遠田 潤子

文藝春秋

2025年3月6日 発売

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