徳岡譲さん(仮名、52歳)はテレビ制作会社でディレクター職を務めている。20代から30代の間は激務が続いて結婚のことを考える暇もなかったが、40代で飲み仲間が次々に結婚したことをきっかけに婚活を開始。49歳のとき、同じ会社で当時31歳だった女性と結婚し、男の子を授かった。
男性の育児参加が推進され、共働きの家庭が当たり前の時代。仕事と家庭のバランスに悩む父親も増えているはずだが、そんな父親の苦悩は母親の苦悩ほど語られる機会がない。なかなか表に出ることのない父親の“言い分”とは、どのようなものだろうか。
ここでは、15人の中年男性が“子供を持つこと”について赤裸々に語った『ぼくたち、親になる』(太田出版)から一部を抜粋して紹介。徳岡さんが息子の子育てを経験して「社会がパパの不満を無視している」と考えるようになった理由とは――。ライターの稲田豊史さんが話を聞いた。(全6回の3回目/続きを読む)
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育児で満たされなかった
妻の出産にあたり僕も育休を取ったんですが、数週間のうちに「これが育休かよ!」って本当に嫌になりました。
コロナ制限ゆえに、分娩は途中10分程度立ち会っただけ。退院後も生まれたばかりの子供と直接的に触れ合えるのは妻だけで、僕はスーパーにひとりで食材を買いに行ったり、料理したり、掃除や洗濯をしたりと、出産前と同じような家事ばかり。それをひとりでやるので、さらに孤独が募ります。子供の沐浴もお湯の用意だけ。妻が「自分が洗いたい」と言うので、初めはほとんど触らせてもらえませんでした。
自分が親ではなく、母子を遠くからサポートする小間使いのような気分。しかも妻の関心は常に子供に行ってしまうので、疎外感すら覚えました。
妻の希望で完全母乳だったことも大きいです。僕としては、妻が夜中に授乳で起きなくて済むようミルクも提案したんですよ。ミルクなら、夜中でも僕が準備してあげられるから子供に触れられますし、妻の負担が少しは軽減されるので一石二鳥。でも、妻は母乳の分泌量を不安に思い、完全母乳を貫きたいと。彼女の意志は尊重しましたが、あとあとになって心に穴が空いた気がしました。当時の僕は明らかに暗いというか、うつ気味だったと思います。妻もそう言っていました。
もちろん、子供が起きているときに抱っこはできます。でも、そういうことじゃない。子供のお世話をしている感がない。この命に必要なことは何ひとつしていないような喪失感がありましたし、「関われない」ことから来るストレスがものすごく大きかった。
ひと言でいうと、全然満たされなかったんです。
