栗田将さん(仮名、43歳)は大手出版社で書籍編集者として働いている。一見すると控えめなタイプだが、10万部を超えるヒット本を何冊も世に出してきた、いわゆる「できる編集者」だ。
2人の息子の父親でもある栗田さんが語ったのは、編集者にとって「子育てはハンデ」だという衝撃の本音だった。一体、その真意とは――。
男性の育児参加が推進され、共働きの家庭が当たり前の時代。仕事と家庭のバランスに悩む父親も増えているはずだが、そんな父親の苦悩は母親の苦悩ほど語られる機会がない。なかなか表に出ることのない父親の“言い分”とは、どのようなものだろうか。
ここでは、15人の中年男性が“子供を持つこと”について赤裸々に語った『ぼくたち、親になる』(太田出版)から一部を抜粋してお届けする。(全2回の1回目/続きを読む)
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編集者になるのが夢だった
高校時代から編集者になるのが夢でした。でも、新卒で出版社に入れたはいいけど、20代のうちはずっと販売営業、つまり書店と取次(問屋)回り。30歳目前で、念願叶って書籍の編集部に異動できました。
ただ、僕は出向社員でした。というのも、僕がその出版社に入社したあとで、僕の所属する営業部門が別会社として分離独立したからです。要するに、早いとこ編集部のある本社に転籍しなければ、いずれは販売営業に戻されてしまう。
出向期間は一般的に3年。その3年の間に、僕がやらなければならないことは何か? 考えた結果、自分にふたつのノルマを課しました。ベストセラーを出すこと、そして社内で表彰されることです。このふたつのゴールを達成できれば、誰も「栗田を営業部門に戻そう」なんて言わないはず。
とはいえ、30歳で編集者1年目ということは、新卒ですぐ編集部に配属された奴に比べて7年ものビハインドがあります。スタート地点がずっと後ろ。にもかかわらず、ゴールはほかの人よりずっと先。しかもタイムリミットは3年。やることは山積みです。焦ってはいましたが、燃えてもいました。
嫁は、僕が長らく編集者になりたいと思っていたことを知っていましたから、異動辞令が出たときには我が事のように喜び、祝福してくれました。ほら、この革の鞄、見てください。嫁がそのときにお祝いとして買ってくれたものです。今でも会社にはこれで出勤しています。
