子育てはハンデ

 ところが、嫁はそういうタイプの仕事をしたことがないから、いくら説明しても理解してくれません。「家にいるから、それくらいできるでしょ」を繰り返すだけ。

 でも、洗濯物を取り込む時間自体は15分でも、元の没入度を取り戻すには、それこそ30分も1時間もかかる。たとえば、15時に洗濯物を取り込んで、手早くたたんで15時15分。16時40分には保育園のお迎えに出なければいけない。こんな細切れの時間で没入することなんてできません。

 子供を連れて帰宅したら、もちろんほっとくわけにはいかないので、ずっと相手をしています。大量に届くSlackへの簡単なレス程度はできますが、嫁が18時半に帰ってきて一緒に夕食を取って風呂に入るまでは、仕事は完全に中断します。

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 嫁に育児のほとんどを任せていたときと違い、嫁が働きに出て育児を半々でシェアするようになって、僕は没入する時間をほぼ完全に奪われました。

 共働き夫婦が子供を育てるとはこういうことだ、というのは百も承知です。どんな夫婦だってそうしているでしょう。だけど、気づいたんですよ。共働きで子供を持つというのは、編集者にとってはすごいハンデなんだ、と。

準備ができないから戦えない

 書籍編集者の仕事の中でも特に大事なのは、インプットです。仕事と直接関係がなくても、これはと思う本やマンガや映画は、常日頃から浴びるように読んだり観たりしておかなければなりません。情報源としてのネットニュースやXなどのSNSは隙間時間にスマホでもチェックできますが、ちゃんとした「作品」に没頭することを怠れば、編集者としては“終わる”んです。

©beauty_box/イメージマート

 日々良質な作品に触れ、感性を刺激し、脳を回し続けなければ、編集者としての感覚は鈍り、腕も落ちる。発想力も企画力も編集力も、すべて錆びついてきます。同業者の方なら、わかっていただけるんじゃないでしょうか。

 ところが、子供ができて育児にコミットすると、没入する時間が取れないから、2時間集中して映画を観るとか、マンガを一気読みするとか、難しい本を集中して読むみたいなことが一切できなくなります。まず、連続ドラマは観ないし、観られない。長い小説や、巻数ものの本は無理。本来、いい書き手を探すための読書は編集者の生命線とも言えるものですが、そこに思ったように時間が取れない。

 書き手さんにアプローチする際には、せめて主要作は全部読んでおきたいけど、それができなくなる。これが本当につらいんです。土日は平日以上にそれができません。週末、家に小さな子がふたりいる状態で、自室にこもってじっくり本を読むとか映画を観るなんて、できるわけがない。