父のようになりたくない

 この家族の、一番の被害者は母です。いい人がいれば再婚して新しい人生を歩んでほしかったけど、彼女はその選択をしませんでした。

 そういう母を幼い頃から近くで見ていて思ったんです。「家庭って、そんなにいいもんじゃないな」って。僕の晩婚の原因のひとつは、確実にそれです。自由に生きた父親に振り回された母親の人生が、どこか僕の心に影を落としていました。

 婚活当初、僕の子供願望はさして強くなかったんです。相手の年齢にもよりますし、いてもいなくてもいいか、くらいのスタンスでした。ただ、あるとき母に言われたんですよ。「子供を作っておかないと、表現の幅が狭まるわよ」って。

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 実は、母は帰国後に文筆家を目指し、何冊か著作も出版しました。つまり表現活動をしている人です。そんな母の「表現の幅が狭まる」という言葉は、まがりなりにも映像制作という表現活動をしている僕にすごく響きました。

 それになにより、母の想いに応えたいという気持ちが僕の中にありました。母子家庭で当然ママっ子でしたし、ひとり息子を抱え、異国の孤独に生き抜いた母の人生をずっと見ていましたから。

 僕は、我が子に無頓着だった自分の父親と違って、育児と向き合いたかった。そして、その「育児と向き合う」は「妻と同じくらい子供に触れる」ことだったんだと、自分に子供が生まれて気がつきました。

 ただ、そんな気持ちが男性にもあるということに、この社会では誰も見向きもしない。問題にしない。心底、がっかりでした。

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