おそらく上司は嫌味のつもりではなく、「子育ては大きな車でするもの」という価値観をそのまま口に出しただけなのだろう。けれども相手の家計にまで踏み入るようなアドバイスは、いくら上司とはいえ「ありがた迷惑」に聞こえてしまう。

「軽は潰れる」「スライドドアは剛性がダメ」夫の提案は…

 それまで車を必要としていなかった夫婦でも、妊娠・出産を機に車を購入するケースは多い。夫婦間で「車に何を求めるか」が一致すればよいが、話がまとまらないと……。

 東京都下でN-BOXを維持する小林さん(仮名・20代女性)も、かつてそのような「意見の衝突」を経験した一人だ。

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「妊娠するまでペーパードライバーだったので、『なるべく出産前に車を買って運転に慣れておきたい』と思ったんです。タントやN-BOXが便利だというのは先輩ママから聞いていましたし、ミニバンは絶対にぶつけると思ったので、軽のスライドドアがいいなと。

 でも夫は、『軽は事故ったときに潰れるから絶対にダメ』と譲らず、そもそも『スライドドアも剛性がよくないからイヤだ』と。かわりに提案してきたのが、トヨタのヤリスだったんですよ。なんか、衝突安全性が優秀だとかで、勝手にディーラーで見積もりまでもらってきて。

 私は最初、ヤリスがどんな車か知らなかったんですけど、カタログを見せられて唖然としちゃいました。『この人、子育てのこと何も考えてないじゃん……』って。

 ベビーカーとか、車内での着替えとか、雨の日の乗せ降ろしとかどうするの、と猛反対しましたが、『ヨーロッパではこういう車で子育てするのが普通。スライドドアに執着する日本人がおかしい』と話が噛み合わないんです。

 そりゃ、夫がメインで使うならいいですけど、それまでの家事負担を考えても、送迎や買い物は私の役目なんですよ?

 しばらく険悪ムードが続きましたが、ある日コロッと『N-BOXでいいよ』と態度を軟化させてきたんです。ちょうど、昔の友達と飲みに行った翌日でしたね。本人は言いませんけど、そこで誰かに説得されたのかなと思っています」

 子育てに使う車に安全性を求めるか、利便性を求めるかは難しい問題である。ただ「スライドドアはNG」といった「こだわり条件」があると、話もまとまりにくくなる。いずれにせよ、選ぶ際には「主に使う人の意見」を優先した方が、後悔や軋轢は少ないのかもしれない。