けんすう Googleは、「コード補完(AIによる提案を承認した文字数)/(手でタイプした文字数+AI承認文字数)」という指標において「50%程度の文字数がAI支援によって承認されている」とブログで書いていました。また、AnthropicのCEO、ダリオ・アモデイさんは、同社の多くのチームで「AI/Claudeがコードの約90%を書いている」と語っていたそうです。

 もしかしたら、数年以内にほとんどのコードをAIが書いていく、という時代が来るかもしれません。となると、一部の企業が、AIがAIを開発する“加速度的な進化”を独占する可能性もありますね。

エミン それが本格化したら、もはやお金が意味をなさない世界が出現するかもしれませんね。しかし当面のあいだは貨幣経済のなかであらゆるものが動いていきますから、お金を取り扱うリテラシーが人間社会には必要です。

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けんすう氏

無節操な金融緩和は猫に「おやつ」をあげるのと同じ

けんすう 本書を読んで思ったのが、人類はお金をめぐって同じような過ちを何度も繰り返してきた、ということ。金融緩和、とくに貨幣の毀損による国家衰退は、ローマ時代にも、スペインも、そして現代も同様のことが起こっていますよね。

エミン 残念ながら人間の本質が変わらない以上、人は何度も同じ過ちを繰り返します。ローマ帝国でも、財政が悪化すると皇帝たちはコインの銀含有量を減らす「改鋳」を行いました。質の悪いコインを大量に市場に溢れさせるということは、無節操な金融緩和と同じです。結果、100年間で物価が150倍以上になるハイパーインフレが起き、高度な市場経済は崩壊し、帝国は衰退した。

 そこからヨーロッパでは物々交換が復活し、約1000年続く「暗黒の中世」に入りました。貨幣経済が復活したのはルネサンス期まで待たねばなりませんでした。つまり、経済システムの崩壊は、文明を1000年も後退させるリスクがある。

けんすう 歴史は常に進歩するわけでなく退化することもあるわけで、金融緩和の問題は、今に置き換えてみても怖いですね。

エミン 結局、どの時代においても王様にしろ政治家にしろ、国民にお金を刷ってばら撒くほうがポピュリズム的に楽なんですよ。これは猫を飼っている人ならよく分かると思うんですが、猫に「おやつ」をあげるのはとても楽しい。猫も喜ぶし、自分も嬉しい(笑)。猫の爪を切ったり、お尻を拭いたりするのは面倒なわけです。

 でも政治家がみな面倒臭いことを避けて“猫におやつをあげるような政策”ばかりやれば、経済システムの基盤自体が揺らいでしまって、貨幣への信頼が失われ、最終的には国家が崩壊してしまう。金融緩和のやりすぎは、私たちの文明の進化を止めるいわば大量破壊兵器に等しいことを肝に銘じるべきなんです。