人気エコノミスト、エミン・ユルマズ氏とエンジェル投資家としても知られるけんすう氏の白熱対談。インフレ時代における資産防衛術、そして「物語」を見極める投資の極意に迫る。

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エミン・ユルマズ氏(左)とけんすう氏(右) 撮影・細田忠(文藝春秋)

なぜ「仮想通貨の高騰」を当局は黙認しているのか?

けんすう ここ10年、ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)界隈が盛り上がっていますが、エミンさんはどう見ていますか?

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エミン 僕は仮想通貨に関してはあまり用途がないと思っていて、基本的には法定通貨の代替になることはないと思っています。少しばかり「陰謀論的」な仮説を持っているんですが、仮想通貨の存在をアメリカ政府が許容しているのは、世界中で金余りが起きている「過剰流動性」の逃がし先として、インフレの抑制に利用してるからじゃないかと思っています。

 あり余ったマネーは不動産やゴールドや高級時計など様々なものに流れてインフレを促進するものですが、一部は仮想通貨に流れてもらったほうがましなわけで。

けんすう なるほど! インフレ抑制の観点でいうと仮想通貨にいったお金の流れはそこで止まったほうがよく、むしろ「使い道がない」ほうがよいわけですね。

エミン その通りです。だから規制当局もある種の「ガス抜き」として仮想通貨が投機的に高騰しても黙認しているんじゃないかと。ちなみにトルコでは今までゴールドしか買わなかったおじさんおばさんたちがこぞって仮想通貨の売買を毎日のようにスマホでやっています。まあ人生のちょっとした遊びであり、お小遣い稼ぎですね。自国通貨がどんどんインフレで目減りしているから庶民も仮想通貨に手が出るんです。

けんすう ナイジェリアあたりでもブームになってますよね。背景には、やっぱり世界的にインフレ傾向にあるから資産を別のものに逃がそうという発想なんでしょうか。

インフレ時代に強いマインドとは?

エミン 彼らは完全に「インフレマインド」なんですよ。僕のトルコの友人なんて、クレジットカードの支払いが滞ってカードが止められそうになったとき、何をしたと思います?「止まる前に買い物しなきゃ!」って言って、限度額いっぱいまで買い物をしたんです。

けんすう すごい発想(笑)。破綻する直前にさらに買っておこうと。

エミン 日本人からすると信じられないでしょうけど、インフレ率が激しい国では「今が一番安い」のが常識なので、ある種合理的な行動でもあるんです。借金の実質価値もインフレで目減りしますから。

エミン・ユルマズ氏

 インフレの激しいトルコでは、自分の妹の話を聞いても10年前に買った家のローンの支払いが今では本当に飲み代レベルです。1ヶ月のローンの支払いが15万だったとすると感覚的には1万円ぐらいになってるんですね。お金を借りて家買った人たちが得していて、それができなかった人たちが大きく損をしている。同じことが日本でも加速していく気がします。