レジで見た「異常な光景」
前述した通り、若者が多めとはいえSHEINの売り場はさまざまな客層で賑わっていた。しかし、よく見ると試着室にはほとんど列がない。
これはフランスでは非常に珍しい光景だ。近くのForum des Halles(フォーラム・デ・アル)に入っている H&MやZARAの試着室には、平日でも大行列ができる。それがSHEINではほぼ「ゼロ」なのである。
試着室だけでなく、レジ前にも人がいない。対照的に、近辺にあるUNIQLO Rivoli店やZARA Rivoli店では、いつもレジ前に長い列が続いている。ユニクロはフランス国内で29店舗(執筆時点)を展開しており、ファッションにうるさいフランス国民から「長く着られる高品質な日常着」として強い信頼を集めている。パリでは新たにバスティーユ店の開業も発表され、勢いは増すばかりだ。
SHEINのパリ常設店の価格帯は、前述の通りトップスが20~30ユーロ、ワンピース30~40ユーロ。これはフランスの基準だと、ごく普通の価格帯といえる。爆安なイメージを期待して来た客にとっては拍子抜けで「この値段ならユニクロかZARAで買ったほうがいい」と考える人が多いのだろう。
店内である3人組の若者に声をかけると「話題だから来た」「売っている服は美しくないね」「写真を撮りに来ただけで、買い物する気はない」との返答。彼らにとってSHEINは、購入の対象というより、観光気分で「見に来る場所」であり、SNSで共有するための面白スポットとして機能しているようだった。彼らに限らず、目的は必ずしも買うためではなく、「話題だから、とりあえず見に来た」という軽い興味が空間を支配しているように見受けられた。

