「SHEINなんて馬鹿げている」「最悪」

 高齢の女性は、SHEINに対して不満げにこう話す。 

「SHEINなんて馬鹿げている。私は20年前に買ったセーターを今も着ているんです。昔はここに長く使えるいいものが売っていたのに」

 彼女は「3階に入った韓国食品の店も馬鹿げています。1階に韓国コスメが入ろうとしてるのも、最悪ですね」と続けた。つまり彼女の怒りは、特定の国やブランドに向けられたものではなく、BHVが自分の知るBHVではなくなっていくという変化そのものへの違和感や喪失感に近い。

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高齢のフランス人女性は、SHEINだけでなく韓国コスメのテナントにも嫌悪感を示していた

 一方、20代のフランス人男性は、今回の騒動を「フランス社会が抱える矛盾の表れ」と分析する。

「店のオープンで暴動が起きるなんて、本当に恥ずべきことです。でも、これは長年続いた、国家の治安対策の甘さが招いた結果だと思います。こういう騒ぎを起こすのは、たいてい郊外の若者たち。社会への不満がくすぶっていて、象徴的な対象にぶつけてしまう」

 さらに彼は、フランスが抱える「ねじれ」の構造をこう説明する。

「フランス人は安い商品を求めています。中間層も生活が苦しいですからね。同時に、中国製品が国内の商店の仕事を奪っているという怒りも大きい。

 でも生活が苦しい層は、それらの問題を理解していても、安いSHEINを選ばざるを得ない。環境問題について強く主張するのは中~上流層で、道徳的に正しいことを言える立場にある人たちでしょう。そのギャップこそが、フランス社会の怒りを広げていると思いますね」

多くの人で賑わうBHV

「フランスは守られていないと感じる人が多い」

 とはいえ、日本を中心にSHEINなどウルトラファストファッションは拡大を見せている。なぜこの問題がとりわけフランスで激しく噴き出すのか。彼はその理由を、アメリカとの比較でこう語った。

「アメリカは中国との貿易で関税を引き上げました。2024年9月27日以降、中国からの特定輸入品に25%以上の関税がかかっていますよね。でもEUはそうしない。フランスは守られていないと感じる人が多い」

 SHEINをめぐる議論には、物価上昇、治安不安、格差拡大、産業保護、中国との経済関係、エコ倫理——といった複数の問題が同時に絡み合っている。1つのブランドをめぐる議論に見えて、その背後には、いまのフランス社会が抱える深い断層が横たわっている。オープンから騒動を巻き起こしたSHEINの店舗だが、今後どうなっていくのか。市民のまなざしは、静かにその行方を追っている。

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