現金輸送車に積まれた約3億円の現金を、白バイ警官に扮した人物が奪って逃げた1968年の「3億円事件」。犯人が捕まらないまま公訴時効が成立し未解決事件となってから、今年で50年になる。
昭和を代表する作家・松本清張は事件を元にした短編『小説 3億円事件』の中で、真相を追求しようと試みている。担当刑事とは意見を異にする、清張が唱えた“新たな犯人像”とは……。ここでは『昭和未解決事件 松本清張の推理と真犯人X』(宝島社)より、一部を抜粋して紹介する。(全2回の1回目/続きを読む)
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小説形式で発表された「調査報告書」
『小説 3億円事件』は1975年、『週刊朝日』誌上にて発表された短編である。時期は12月であり、1968年12月10日に発生した、戦後最大の未解決事件のひとつである3億円事件の公訴時効に合わせて掲載された。
この作品には「米国保険会社内調査報告書」という副題がつけられており、アメリカの私立探偵事務所所長であるG・セーヤーズなる人物が、「スミス火災海上保険株式会社」の部長にあてた、3億円事件の調査報告書という形式をとっている。
タイトルに「小説」とついているとおり、この調査報告書や探偵事務所所長は架空のものと考えられるが、事件の調査内容の骨子は、基本的に公表された事実に基づいた清張の推理であることは疑いようがないだろう。なお、本作品は2014年にドラマ化(テレビ朝日開局55周年記念番組)されている。
3億円事件とは1968年、東京都府中市の路上で、白バイ警官に扮した犯人が、東芝府中工場に支給する冬のボーナス約3億円を奪った事件である。
同年12月10日午前9時20分ごろ、東京都府中市を走行中の日本信託銀行の現金輸送車を、白バイに乗った警察官が停止させ、車内の行員4人に「この車に爆弾が仕掛けられている可能性がある」などと告げた。
行員4人が車内や車体の下を点検していると、警察官が「あったぞ」と叫び、車の下から煙が上がった。行員4人は慌てて輸送車から離れ、物陰に避難したが、その隙に白バイ警官は輸送車を発進させ、白バイを置き去りにしたまま姿をくらましたのである。
