知られていなかった嘉六と児玉の密接な関係
嘉六は戦前から右翼団体の関係者を通じて児玉誉士夫と交流を持っていた。遺言状の中では、児玉について次のように触れている。
〈一、児玉誉士夫は出て来ても飛びあるかぬ様注意せよ〉
千本木氏が解説する。
「遺言状が作成されたとき、児玉は巣鴨プリズンに拘留されていた。つまり『出て来ても』というのは、拘置所から出獄してきても、ということだ。嘉六が、児玉のことを心配している様子が分かる」
ほかにも巣鴨プリズンにいる児玉に宛てた“指示”が記されているほか、これまでは知られていなかった嘉六と児玉の密接な関係を裏付ける決定的な記述もある。
日本自由党や自民党の創設に詳しい青山学院大学文学部史学科の小宮京教授はこう解説している。
「遺言の存在自体はトシ子がメディアに明かしていましたが、書面が実在することに驚かされました。文言からは、辻が児玉に政界人脈を含め、後事を託したとも評価できる」
嘉六の死後、児玉は戦後政界で暗躍し、ロッキード事件への関与が取り沙汰される。一方のトシ子もまた、宏池会を舞台裏から支えることになる。2人の接点はあったのだろうか?
月刊文藝春秋2026年1月号(12月10日発売)、及び月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」(12月9日先行配信)に掲載した千本木氏のレポート「『けものみち』モデルの遺言状」では、遺言状の中身を詳報。今回新たに入手した辻トシ子の手帳の記載から、これまで明らかになっていなかった大平正芳政権成立に向けたトシ子の動きについても検証している。
千本木氏は、辻トシ子についてのノンフィクションを「ダイヤモンド・オンライン」で連載している。
出典元
【文藝春秋 目次】前駐中国大使が渾身の緊急提言! 高市総理の対中戦略「3つの処方箋」/霞が関名鑑 高市首相を支える60人/僕の、わたしの オヤジとおふくろ
2026年1月号
2025年12月10日 発売
1550円(税込)
