昭和史研究者の保阪正康氏は、高市早苗首相に対し、「根本的な政治姿勢に対する危惧は強くある」と語る。保阪氏の連載「日本の地下水脈」の最終回「大衆よ、ファシズムに呑まれるな」より一部を抜粋します。(「文藝春秋PLUS」では、本連載を第1回から全60回分、すべて読むことができます)
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「経済保守」を継承する高市
高市は、維新との「連立政権合意書」や所信表明演説で、自らの政策や政治姿勢を明らかにしているが、いくつかの注視すべき点があらわになってきた。
まず、安倍政権を引き継ごうとする意志が強くあることだ。安倍政権は、経済的に弱肉強食を肯定するアベノミクスを基調としながら、その景気刺激策という面をアピールして大衆を引きつけ、集団的自衛権行使の容認、憲法改正宣言、官僚やメディアへの独裁的な支配などを行う「経済保守」の性格を有していた。高市はまさにそれを継承しようとしている。この立場が「真正保守」と程遠いことは、「対米従属からの脱却」を模索するどころか、従米構造を強化しようとするところに如実に表れているだろう。高市は安全保障関連費(防衛費)増額を掲げて、安保三文書を前倒しで改定すると言っているが、これは軍事への傾斜であると同時に、対米従属のさらなる強化を意味する。
所信表明演説では、安倍が傾倒していた幕末の長州藩の尊王思想家、吉田松陰を引用した。演説中にあった「世界の真ん中で咲き誇る」も、安倍が口癖のように語った言葉だという。これは、高市が安倍の後継者を自ら任じていると同時に、いまも安倍を支持する大衆の右派的動向をできる限り取り込もうという意欲の表れであろう。
権力を私物化する傾向があった安倍政権は、裏金問題や統一教会侵蝕問題を引き起こしたが、これに関わった政治家や、日本会議に関係の深い政治家が高市内閣を構成する内部に存在することは、今後、政権を不安定にする要因となるだろう。

