『羅小黒戦記』が日本のアニメ・マンガに寄せたリスペクト

『羅小黒戦記』のスタッフがファンと公言するのは中国で人気の高い新海誠作品だが、それ以上に彼らの作品に感じるのは、日本の女性クリエイター、女性のアニメ・漫画ファンダムの影響である。

 戦争と暴力に対するトラウマと激しい怒りを抱えたルーイエの人物造形にはガンダムはじめ多くの作品で描かれた戦時下のフェミニズム的女性キャラクターのモチーフがさらに洗練されている(ルーイエはまるでガンダムWのヒイロとリリーナの間に生まれた娘みたいだなと思いながら見ていた)。妖精たちの長老として描かれるシームーズ(西木子)、チーネン(池年)の二人は日本のBLが何度も描いてきた「柔と剛の男性像の対比」を彷彿とさせる。

シームーズ(西木子) 『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』公式サイトより
チーネン(池年) 『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』公式サイトより

 とりわけ扇子を持ち目を細めて笑顔を見せるシームーズという妖精の描写は印象的で、飄々としながら超然とほほ笑む姿は、日本の女性向け創作や二次創作が描いてきた「柔の男性像」をさらに洗練させた感がある。

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 だがその彼が妖精と人間の人種間憎悪という政治的衝突の間に敢然と立ちふさがり、「剛」の男性像であるチーネンの強直さ、妖精を守ろうとする美質を理解しつつも「そろそろ折れては?」としなやかに促すくだりは、日本の女性作家たちが描いてきた柔と美の男性像を「柔よく剛を制す」という形で作品のテーマに見事に沿わせた中国クリエイターの鮮やかな返歌に思えた。

平和が訪れるその日まで…宮崎駿や高畑勲との共通点

 それが何年後になるかはわからないが、東アジアから戦争の危機が去り、すべての国家に表現の自由が保障された時、日本と中国の研究者たちはこの時代のサブカルチャーを題材に、国家により遮断された微博(中国のSNS)とXの間を渡り鳥のように行き来する女性ファンダムの交流がどのようなものであり何をもたらしたか、『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』(水木しげるの妖怪と、羅小黒戦記の妖精たちはなんと似た場所に立っているのだろう)などの同時代の日本の作品と中国作品にどのような共通点があるかを語り合うのかもしれない。

微博のサイトより

 彼ら『羅小黒戦記』のスタッフだけが不自由な国に住み、自分たちが正しい民主主義の国に暮らしているとは思わない。ガザ虐殺をめぐりハリウッドが世界にさらけ出した矛盾は、中国から「今まで少数民族政策について欧米が中国に言ってきたことはなんだったのか」と言われても返す言葉のないほどの惨状だった。