11月7日から日本公開されているアニメ映画『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』の素晴らしさをまだ見ていない人に伝えることは、とても難しい。

『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』公式Xより

 中国で作られたアニメがいかによくできているか、という話をした瞬間に、それは今の悪化する日中関係の中では「中国脅威論」として解釈されてしまうからだ。筆者自身、要するに中国はアニメでも日本を追い越してるという話がしたいんでしょ? と言わんばかりに目の前で心を閉ざす知人の反応を何度見たか分からない。

 でもそうではないのだ。『羅小黒戦記』シリーズの本質はテクノロジーにあるわけじゃない。確かにスタッフの技術は高いのだが、CGを使った最新技術とか、巨額の制作費と人員を投じているとか、そういう物量で圧倒してくるわけではない。アニメーションの線はシンプルで、むしろ懐かしいクラシックな香りがする。でもそのシンプルな線で動きの芯をとらえる絵の見事さは、昔のカンフー映画に登場する、大剣を振り回す大男たちを煙管一本で制してしまう拳法の老師みたいな見事さだ。

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日本のアニメーターも絶賛する“職人技”

 2019年、前作『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』が公開された時、のちに『ルックバック』の制作を支えることになる日本のトップアニメーター井上俊之氏はTBSラジオ『別冊アフター6ジャンクション』の中でその技術を絶賛し「これからは自分たち日本のアニメーターが彼らの背中を追いかける時代になるかもしれない」と率直に語っている。それは『羅小黒戦記』を現代の中国アニメの新たな水準として見た日本の超一流アニメーターによる、誠実な言葉だったと思う。

 だがあれから数年が経ち、今回続編が公開されるまで、中国から『羅小黒戦記』のようなアニメが続々と現れたかと言えば、ノーだ。もちろん中国アニメのレベルが低いわけじゃない。今年公開された中国アニメ『卓球少女』だって、球の軌道の描写や生き生きとしたキャラクターに魅力がある良い作品だった。でも『羅小黒戦記』はあまりにも他の作品と違うのだ。それは中国アニメだけではなく、ディズニーや、日本のアニメと比較しても、彼らのアニメーションはあまりにもユニークで、唯一無二なのである。

 主人公の黒猫の妖精シャオヘイ(小黒)が猫の姿をしている時の描写について井上俊之氏は「デフォルメされているのに動きが猫の動きをしている」という賞賛をしている。それはまさに『羅小黒戦記』のスタイルを象徴するような表現だ。猫と呼ぶにはあまりに記号的な、〇と△を組み合わせたようなシンプルな形なのに、「一瞬で動いてピタリと止まってこちらを観察する」という猫らしい動きをするので猫にしか見えなくなってくるのだ。

 これは3DCGをデッサンモデルにして描くとか、あるいは実写映像をトレースするロトスコーピングでは描けない、本当に絵が上手いアニメーターが猫の動きの本質を理解して描くと抽象的な記号に猫の魂が宿るという、アニメの本質のような動画なのである。