強制的平和統一を目指す
中国も「力」だけでは限界があることは理解している。現在、平和統一か武力統一かの二択ではなく、台湾側に「もはやこれまで」と諦めさせて中国の懐に入ってくるように仕向ける「強制的平和統一」を最善のシナリオに据えている可能性が高い。そのなかで、力を入れているのが認知戦である。大量のアカウントを生成し、政権党に不利な情報、台湾の民心が乱れているなどの情報を拡散したり、フェイク動画をAIで作成し、botで大量拡散したりする手法である。
偽情報や真偽不明の情報は百人のうち数人しか信じなくても何千回、何万回と拡散されるうちに世論の色に変化が生じる。「成功例」が、2023年あたりから深く広がった「疑米論(米国を疑うべきとの言説)」だった。民進党政権の頼りの米国はアフガンから撤退し、ウクライナにも派兵していない。いずれ台湾も見捨てられる。中国の攻撃に助けに来ない。野党国民党支持のメディア、言論人が呼応して大きな流れとなり、2024年の選挙で民進党苦戦の一因となった。
ほかにも、中国市場で成功している台湾人の俳優、歌手らタレントたちは、定期的に「両岸一家親(中台は家族)」などの習近平体制の統一スローガンを、SNSや中国での公的活動のなかで発信するよう事実上強要されている。彼らの市民への影響力は大きいことから、頼政権は8月に20人以上のタレントから集中的にヒアリングを行い、中国の片棒を担ぐような言動を慎むよう要請した。
台湾は国防部やデジタル発展省のなかに対策班を立ち上げて日常的に不自然な情報拡散への監視を行うが、膨大な作業に対応が追いつかない。台湾が民主主義を掲げる以上、「米国が信頼できない」「頼政権は腐敗している」などの言論を一方的に警察力で取り締まることは難しい。台湾、ひいては民主主義社会の弱点に付け込む認知戦の効果は想像以上だ。台湾の問題は人ごとではなく、我々自由社会の模索は続くだろう。
◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2026年の論点100』に掲載されています。



