NHK中継ラスト「10秒」の攻防戦
――とはいえ、自民党からの分断工作も絶えなかったでしょう。
泉 まさに、そのとおり。安倍さんはあざとくて、テレビ中継を使ってそういう演出を仕掛けるんです。予算委員会や党首討論が終了した後、NHKでは「これで、国会中継を終わります」というナレーションが流れるでしょう。その間、10秒ほど議場の様子が映るんですが、安倍さんは一目散に野党のところに行って握手を求めたりする。それを見ているテレビの視聴者からしたら「なんだ、野党は安倍政権と裏で手を握っているのか」と思うでしょう。そういう誤解を招くような映像が全国に流れます。
辻元 あの「10秒」はとても大事で、私も意識しています。小泉政権の時は、自分から総理に近づいて行って、「あなたね、なぜ答えないの!」とわざと大声で叫んだことがあります。大きく腕を振って、「あなたねえ!」と迫ったわけです。そこが報道されました。安倍総理に対しても、あの時間を使って認識の間違いをただしたことがあります。
泉 それがある時、我が党の玉木共同代表に襲い掛かってきたこともあった。安倍さんと握手してしまって、それだけでずいぶんと話題を呼んでしまった。
辻元 そうそう。あの時、玉木さん、長妻昭さん、辻元と横並びで座っていたわけ。安倍さんが必ずうちらの前に来るだろうと思ったから、終了直後、私は絶対目を合わせないようにヒュッと後ろを向いて、タタタッと水飲み場のところに逃げた。「あ、しまった、玉木さんに教えておくのを忘れた」と思って振り返ったら、玉木さんが握手しているの。ア~ッと、声が出ちゃった。
泉 僕もア~ッと思ったけど、止められなかった。安倍さんは玉木さんと握手した後、隅のほうにいた大塚耕平共同代表のところにもわざわざ行って、腕をつかむわけです。本当の抱きつき戦術でした。
辻元 私は玉木さんが落ち込んでいると思って、夜に電話して慰めました。
誰かが安倍さんに振り付けている
玉城デニー(自由党国対委員長) 討論が終わった後も「戦い」が続いているわけですが、あれは誰かが安倍さんに振り付けていますよね。とても安倍さん自身が思いつく芸当じゃない。テレビを知っている人間、いわゆるメディアコントロールに長けた人でないとわからない。
泉 安倍さんは野党議員にヤジを飛ばされると、「●●さん、ヤジはやめてください」と名前をわざと言う。テレビ中継時に画面の枠に入っていない「敵」の存在を、わざと全国に知らしめて打撃を与える。
辻元 そのターゲット、いつも私です(笑)。私が小さな声で「なによ」と言ったくらいででも、「辻元さん、ヤジやめてくださいよ!」と言ってくる。
泉 要は、テレビの生放送で流れている時間は、誰にも妨げられない自分が主張できる場だということを十分心得ていて、野党に打撃を与える答弁に終始する。今までの総理大臣というのは、基本的には野党から質問されたことに答弁をするという純粋さがあったんですが……。
玉城 真面目だったんですよね。
泉 でも、今の総理は野党から質問されたことに対して、自分をいかにアピールするかということに専念しています。だから、議論が噛み合わないはずです。
――メディア戦略といえば、「野党合同ヒアリング」がネット上で生中継され、話題になりました。「公開リンチだ」「官僚いじめだ」という批判もあり、専門家の間では若者の「野党ぎらい」も指摘されています。
泉 ヒアリング自体は、与党も野党も日常的に党の部会で行っていることで、従来からマスコミに公開されています。与野党問わず国会議員がその場で役人を叱責するシーンも、過去にいっぱいありました。森友・加計問題のヒアリングも実は以前から続けてきたことですし、昨年秋以降、野党が分散してしまった中、野党各党にまとめて説明できる場を、役所の側も望んでいました。さらに信じがたい不祥事が次々と続き、マスコミの注目が非常に高くなって、生中継されるまでに至ったわけです。