2025年のノーベル賞は、久しぶりの日本人ダブル受賞となった。ノーベル生理学・医学賞を授与されたのは坂口志文氏(大阪大学特任教授)。免疫学は大阪大学のお家芸というべき分野であり、これまでにも多くの超一流研究者を輩出してきた。大阪大学としては、まさに宿願のノーベル賞であったことだろう。

在スウェーデン日本大使館公邸で行われるレセプションを前に取材に応じる大阪大の坂口志文特任教授

 受賞対象となった坂口氏の業績は「末梢性免疫寛容に関する発見」であった。免疫は病原体やがん細胞を攻撃し、退治する仕組みだが、なぜ免疫が自分自身の体を攻撃しないのかは謎とされていた。坂口氏は、免疫の自己攻撃を抑える「制御性T細胞」が存在することを実証し、免疫学に大きな進展をもたらした。この研究は、自己免疫疾患やがんの治療にも展開されつつあり、今まで受賞していなかったのが不思議なほどの業績だ。

今回は大阪大、京都大だが東大にも候補者が

 一方、化学賞は北川進氏(京都大学特別教授)に与えられた。こちらは、金属有機構造体(MOF)と呼ばれる物質群の開発を讃えたものだ。巧妙にデザインされた有機分子と金属イオンを化合させることにより、ジャングルジムのように内部に空間を持った物質を創り出したのだ。この空間には小さな気体分子などを取り込むことができ、たとえば空気中から二酸化炭素や毒ガスなどだけを吸収することも可能だ。今まで化学者は、分子を様々にデザインして機能を付与しようとしてきたが、MOFは分子の作る空間をデザインし、優れた機能を引き出した。極めて大きなパラダイムシフトであったといえよう。

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 藤田誠氏(東京大学卓越教授)もMOFの開祖の一人であり、ノーベル賞の有力候補に挙げられてきた。今回は気体の吸収と貯蔵という点にスポットが当てられていたためか、残念ながら対象から外された。ただし、藤田氏はMOFの研究を展開して、結晶スポンジ法と呼ばれる革新的な分析手法を編み出している。また、分子同士が自然に寄り集まって複雑な構造を作り出す「自己組織化」の研究でも、極めて独創性の高い成果を挙げている。このため、今後また別の枠組みで受賞対象となる可能性は、十分にあるだろう。