日本が得意とする材料科学領域にも有力者がずらり

 同じく生理学・医学賞には、小川誠二氏(大阪大学特別栄誉教授)も候補に挙げられている。脳疾患などの診断に欠かせない、fMRIを開発したことで知られる。脳内の酸素や血流量の変化を検出する仕組みであり、脳の活動を定量的に測定できる。このため医療目的や脳科学以外の分野、たとえば行動経済学などにも大きな進歩をもたらした。その影響の大きさを考えれば、受賞資格は十分過ぎるほどだろう。

 物理学賞には、やはり細野秀雄氏(東京科学大学栄誉教授)の名が真っ先に挙がる。スマホの液晶・有機EL画面に使われるIGZO半導体、鉄系超伝導体、窒素固定触媒など、どれが受賞対象となってもおかしくないほどの、驚くべき新材料を次々と送り出してきた。実績は十二分、後はタイミングだけだろう。

 2021年に物理学賞は気候科学、24年は人工知能分野が初めて対象になるなど、傾向が変化しつつあるようにも思える。進展著しいAI分野への授賞は今後も続きそうだが、この領域での日本人研究者は残念ながら手薄だ。我が国が得意とする材料科学領域には、ネオジム磁石の発明者である佐川眞人氏などまだまだ人材がいるが、この先はどうなるか。

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 ノーベル賞受賞が決まった研究者が、記者会見で「このままでは日本からノーベル賞が出なくなる。若手への支援の拡充を」と訴える姿は、もはや恒例行事のようになっている。最先端の知識が巨大な富を産んでいる現代に、日本だけが基礎研究への支援を削り続けてきた。ノーベル賞が出なくなるだけであるならまだよいが、国力の低下にダイレクトに結びついていないか、大いに心配だ。

◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2026年の論点100』に掲載されています。

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