キャラクターを削りたくなかった理由

──原作者として、どうしても削れなかった部分はありましたか?

武田 例えば、話を短くするための手っ取り早い方法って、キャラクターを削ることなんですね。その分、エピソードを減らせるわけで。でも自分は原作者として、それをなるべくしたくありませんでした。

 それはなぜかというと、ペリリュー島にいた日本兵って自分たちと何も変わらない普通の人たちで、そういった人たちによる戦争の物語を描きたいというのが、この作品のスタート地点なんですね。

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 いろんなタイプの違う人たちがいて、初めて“普通の人たち”って構成されます。だから、作品内にいるいろんなキャラクターたちを削りたくなかったんです。

アメリカ軍の基地から盗んできたシーツと女性用のドレスで即席の日の丸を作り、それを潜伏生活をしている洞窟の壁に飾るシーン。

──たしかに。“普通の人たち”っていろんな人たちのことですね。

武田 でも先ほど述べたとおり、史実に則ったエピソードを優先して脚本に残していくと、その分、フィクションのエピソードが削られていって、それに絡んでいたキャラクターたちの存在感が薄くなっていってしまうんですね。ですので、キャラクターを残すために映画用にエピソードの形を変えたりしました。

 キャラクターの行動原理とか性格は変えないままに、でも違うエピソードの中でちゃんと物語に絡むようにはしたいと思っていて、そういったところが原作との違いになっています。

残虐さがより増幅されて……

──他に原作と違う点は?

武田 あとは、残酷なシーンの扱いですね。最初に出来上がった映画を観て、音がつくとこんなに戦場がリアルに感じられるのかって驚いたんですよ。でもその分、残虐さもより増幅されてしまいます。

 漫画では白黒の静止画だったからギリギリ見ることができたシーンも、それに血の色や動き、さらに音もついた映画となると、あまりに残酷すぎるシーンになってしまうんですね。これに関して、制作チームはすごく気を遣って、かなり苦労しただろうと思います。

日本軍の反撃により、アメリカ軍の上陸部隊の血の色で赤く染まってしまった青い海。虹とのコントラストが非現実感を強くする。