指導者はもっと「休ませる」厳しさを
今夏の酷暑に感覚が鈍くなってしまったせいか、Aさんの事故が起こった日の気候は幾分しのぎやすいものに思えます。助教たちの事故防止への意識も、率直に言って現在の中学・高校で運動部の指導にあたる人たちの大半よりも、はるかに高いのではないでしょうか。しかもAさんは、自衛官として十分な体力を備えた19歳の青年でした。
それでも事故は起こりました。私は、何度となく止められても訓練を続けようとした彼に、全国の運動部でレギュラー争いを続ける部員たちや、彼らを励ますマネジャーの姿を見てしまいます。あるいは、チームが勝ち残るために連投も辞さないピッチャーの姿を。指導者たちが、あるいは各種スポーツ団体が競技に向けている厳しさは、もっと「休ませる」ことにも向けられるべきではないでしょうか。
「本人の意思を尊重した」は言い訳にすらならない
今季限りで英プレミアリーグ・アーセナルの監督を退任するアーセン・ベンゲル氏は、名古屋グランパスの監督時代、選手たちの居残り練習を一切禁止したそうです。チーム練習のあと、リフティングで遊んでいる若手選手に激怒したことさえあるほどです。そのコンディション管理の徹底は、選手のオフの過ごし方にまで向けられ「彼女とデートするのは一向に構わないが、一緒に歩くな。お前たちは座っていろ。オフはフリー(自由)じゃない。レスト(休息)だ!」と厳命したそうです。
「居残り練習もキュウリも禁止。ベンゲルがグランパスで見せたこだわり」
https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/football/jleague_other/2018/02/28/___split_32/index_2.php
周囲から不安視されながら訓練に食らいついてきたAさんのように、レギュラーやスタメンを掴み取ろうとオーバーワークを続けた選手たちが倒れてしまったときに、「本人の意思を尊重した」は言い訳にすらなりません。最近は日本のプロ野球でも、長いシーズンを戦い抜くための戦略として、数試合に1~2度のペースでベテラン選手をスタメンから外す「積極的休養」を行うチームが増えています。しかし、競技に専念できるプロアスリート以上に休養と体調管理が求められるのは、成長過程にある少年少女たちのはずです。指導者には「本人の意思」を受け止める、優しさに裏付けられた厳格な「レスト」が求められています。
※レンジャー訓練事故については『判例時報』1027号「陸上自衛隊レインジャー訓練中の隊員の日射病死につき国の安全配慮義務違反が否定された事例」を参照。また「熱中症のホームページ」(https://heat.jp/index.html)の同事故についての記述も参考にいたしました。