なぜ日本製鉄はUSスチールを買収したのか。これまで多くを語ってこなかった日本製鉄会長・橋本英二氏が、買収の真意を語った。対談相手は投資コンサルタントの齋藤ジン氏だ。
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「2位じゃダメなんです」
橋本 これまでは自由な貿易と投資を守るWTO(世界貿易機関)ルールの下で、繁栄を享受する時代でしたが、いまや自国優位を目指して主要国が産業政策を競う時代に転換しました。今後も市場のブロック化が進む前提で海外戦略を考えなければなりません。私は2019年4月に社長に就任しましたが、その年末にはインドで製鉄所を買収しましたし、タイでも大規模な投資を行いました。
一方で、中国からは2024年、主要な事業の撤退を決めました。鉄鋼業界で中国は、世界の生産量の55%を占める最大市場です。ただ、中国で事業を行うには条件が二つあります。一つは内需のみを対象にして事業が成り立つか、もう一つは技術流出を回避できるか、です。世界最大手の中国宝武鋼鉄集団傘下の宝山鋼鉄との合弁事業を行ってきましたが、残念ながら二つの条件をクリアするのは不可能だと判断したのです。
今後は、中国以外の45%の市場で勝負せざるをえません。中国企業を除けば、粗鋼生産量の世界首位はルクセンブルクのアルセロール・ミッタルで、日本製鉄は2位。でも、2位じゃダメなんですよ。45%の市場で圧倒的1位にならないと、中国を含めて世界のトップには立てません。そのために、何としても手にしなければならない市場が米国でした。海外企業の買収は、USスチールで終わりではありません。
齋藤 世界中に製鉄業があるなかで、なぜ米国で買収をしようとされたのか、どのような分析で決断されたのか、教えていただけませんか。

