橋本 どの国で海外事業を行うかは三つの視点で判断しています。一つは需要の伸びが見込めることです。良い鉄を作ったからと言って、自動車メーカーに「車をこれまでの2倍作ってよ」と言っても無理な話。まずは需要が伸びるか否かが重要。二つ目は当社の技術力が活きる高級鋼の需要が大きいこと。そして最後は中国からの安値輸出の悪影響をミニマイズできる産業政策が存在することです。この三つを満たすのが米国でした。

 加えて米国は高炉法ではなく電炉法が主体であることも大きかった。鉄鉱石と原料炭を使う高炉に対し、電炉は古くなったビルや車などのスクラップを電気で溶かして製鉄します。欧米は3分の2が電炉法で、日中韓やインドは高炉法がメイン。特に中国は高炉法が9割です。高炉法は銅などの不純物が混ざらないため、高級鋼の製鉄に向いていますが、大量の二酸化炭素が発生します。日本製鉄では、脱炭素化に向けて一部電炉への転換を進めています。米国は電力が相対的に安く、スクラップも豊富。ニューコアなど有力な電炉メーカーもあり、技術水準も高い。電炉の拡大に向けて絶好の場なのです。

日鉄会長の橋本英二氏は、社員100人以上をUSスチールに派遣する見通しを明かした Ⓒ時事通信社

「フォートレス・アメリカ」に入ったメリット

 齋藤 ビジネス環境が激変する中で、私はUSスチール買収は、日本企業が参考にすべき先駆的な勝ち筋の一つだとみています。買収によって日本製鉄は、事実上の二重国籍企業になりました。米国のバックボーンを備えたうえで、米国の再建、労働者の雇用や安全保障にも関係していく。いわば「フォートレス・アメリカ(関税要塞に守られたアメリカ)」の中に入ったわけです。トランプ政権はいま、安全保障に関連する企業には“アメ”を与えています。例えばレアアースの採掘を手掛けるMPマテリアルズの株式を15%取得し、さらに10年間の最低買取価格を保証して必ず儲かる仕組みを作っている。今後は、こうした動きをAIや医薬品など、幅広い安全保障関連産業に広げていくつもりです。

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 鉄鋼業界では中国メーカーとのデフレ競争を強いられてきましたが、高関税によって、今後はこうしたデフレ競争から守られる。しかも、増加が見込まれる米国の鉄需要を日本製鉄が取り込むことで「規模の経済」や、それに伴う技術革新を追求するための好循環を手にするチャンスを掴んだといえます。

 ただし、その代償として米国政府の介入を許すことにもなりました。買収までの経緯も政治に翻弄されてきた面がありますが、改めて振り返ってもらえますか。

この続きでは、USスチール買収を決意した当時を橋本英二氏が語っています〉

※本記事の全文(約8500字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2026年1月号に掲載されています(橋本英二×齋藤ジン「USスチール買収と日本の勝ち筋」)。全文では、下記の内容をお読みいただけます。

・日鉄社員を100人以上派遣する
・5500億ドルの投資スキームの意味
・米国の鉄需要は現在の1.5倍超を見込める

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出典元

文藝春秋

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