東京から直線距離で約1000キロ、札幌からも約200キロ北に離れたJR宗谷本線・音威子府駅で、一度は絶滅した「日本最北の駅そば」が期間限定で復活した。世にも珍しい真っ黒い麺と出汁が特徴で、根強いファンも多く「日本一の駅そば」と親しまれてきた逸品だ。

 同駅がある音威子府村は「北海道でもっとも人口が少ない村」として知られる。1日の利用者数は50人弱という、言ってしまえば田舎の駅で週に3日のみの営業にもかかわらず「通算1万杯」を5か月で突破しているのは驚きだ。

JR音威子府駅・音威子府交通ターミナル(筆者撮影、以下同)

 なぜ、そんな場所で駅そばがこんなにも売れるのか。一面のパウダースノーに覆われた音威子府村に足を運んで、「駅そば人気」の秘密を探ってみよう。(全2回の1回目/続きを読む

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駅なのかそば店なのか、不思議な空間が広がる

 音威子府駅に発着する列車は、1日6本の特急列車を入れて、上下線で15本程度。駅舎も「音威子府交通ターミナル」と看板を掲げているものの、浜頓別方面の路線バスが案内所ごと撤退してしまい(現在は予約制で運行)、鉄道・バスの利用客は1便あたり数人いればいい方だ。

音威子府駅に到着した特急「宗谷」

 ところが、駅にしては待合室の椅子や机が多い。3卓の長テーブルと十数席の椅子、2人がけの椅子とテーブルが数か所、さらに小上がりの畳席まであり、駅そば店の営業時間前になると、至る所に唐辛子の瓶が置かれる。ここは駅なのか、そば店なのか……?

駅舎には、開店前からそば店に行列を作る人々がいた

 駅そば店のオープンは午前11時だが、その前から眺めていると、午前10時40分着の特急列車から降りた乗客が全員(4人)、さらにクルマで駅前駐車場に乗り付けた人々も含めて、開店前に10人ほどが行列を作っている。